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モンテッソーリ教育に学ぶ、挑戦する心の育み方──原宿子供の家&すみれが丘子供の家(前編)

2018年06月27日



モンテッソーリ教育に学ぶ、挑戦する心の育み方──原宿子供の家&すみれが丘子供の家(前編) | あしたのコミュニティーラボ
私たちにとっての「学び」は学生時代までに終えるものではないはずだ。学びは生涯にわたって寄り添ってくれるものであり、「何かの学びをはじめよう」「学びを続けてみよう」とする「挑戦する心」の醸成は、あらゆるコミュニティーでこれからいっそう求められていくだろう。しかし歳を重ねるにつれ、それは容易ではなくなっていく。「挑戦する心」を育むには、どうしたらよいだろうか……。

そのヒントになり得るのが、モンテッソーリ教育だ。Google創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンがモンテッソーリ・スクールの出身者であることはつとに有名だが、近頃では棋士・藤井聡太七段が幼児期にモンテッソーリ教育を受けていたことで再び話題になっている。

「子どもには元来、自分を育てる力が備わっている」という「自己教育力」を重んじ、「生涯学び続ける姿勢を持った人間を育てる」ことを目的としたモンテッソーリ教育。モンテッソーリ教育施設の現場(前編)、そしてモンテッソーリ教員・堀田はるなさん(後編)への取材から「挑戦する心の育み方」を考えていきたい。

モンテッソーリ教育は社会人にも応用可能か?──原宿子供の家&すみれが丘子供の家(後編)

自主性・協調性・社会性を育むモンテッソーリ教育

日本モンテッソーリ協会(学会)によれば、モンテッソーリ教育とは「幼児の心身の内部的な発達要求に応じつつ、準備された環境の中で1人ひとりの子どもが独自の創造性と喜びに満ちた活動を展開できるように援助を行う」教育のことである。この教育メソッドより、子どもの自主性・協調性・社会性が育まれていくという。

日本にもモンテッソーリ教育を行う教育施設がある。堀田和子さん(現・園長)が開設した「モンテッソーリ原宿子供の家」(以下、原宿子供の家)と「モンテッソーリすみれが丘子供の家」(以下、すみれが丘子供の家)も、そんなモンテソーリ教育施設の1つだ。

モンテッソーリ教員・堀田海也(かいや)さんは、和子さんの長男で、大学卒業後の約10年間、出版社に勤務していたが「自分の身の回りに将来こうなりたいと思えるようなモデルが見つからず、サラリーマン生活にも限界を感じはじめた」。海也さんは母親である和子さんの「子供の家」を手伝うようになり、10年ほど前から本格的にモンテッソーリ教員としての道へ進むこととなった。


モンテッソーリ教員の堀田海也さん。取材は横浜市都筑区にある「モンテッソーリすみれが丘子供の家」で行った

「原宿子供の家ができたのは今から45年前のことです。ちょうど私が幼稚園くらいのときで、母はその頃にモンテッソーリ教育について熱心に勉強をしていました。私自身、直接的にモンテッソーリ教育を行う幼稚園や小学校に通っていたわけではないのですが……」(海也さん)

海也さんはそう切り出して、さらに自身が子どもの頃のことを話してくれた。

「いま、幼稚園の連絡帳なんかを見返してみると“海也くんが陶器製のコップを持ってきています。割れると危ないので、プラスチックのものに替えてください”という先生のコメントに対し、母は“たとえ陶器が割れたとしても、それで子どもが学ぶこともあるはずなので再考を!”なんて意見していたりする。

いま教員になって振り返れば、僕の生活のあらゆる部分にモンテッソーリ教育があったのだと、改めて気づく部分があります」(海也さん)

モンテッソーリ教育の“生みの親”は医師だった

モンテッソーリ教育の起源は、今から100年以上前のローマにある。

モンテッソーリ教育の生みの親、マリア・モンテッソーリ(1870〜1952年)は比較的裕福な家庭に生まれた。当時のローマは、女子の学業専念が社会通念上難しい時代であったが、母親による熱心な教育を受けてモンテッソーリは学業に励んだ。ローマ大学の医学部では女性初の入学者に。「解剖実習に参加することすら許されなかった」という逆風があるなかでも学業に努め、1896年には医学博士号を取得した。その後、ローマ大学付属の精神病院で働くこととなる。

モンテッソーリはそこで、知的障害のある子どもたちに触れた。床に散らばったパン屑を拾い集めることに夢中になる子どもたちを観察しながら、彼らが本能的に知的な刺激を求めていると考えたモンテッソーリは「感覚的な刺激」に着目することに。こうして感覚的な刺激を得ることのできる教育用玩具「教具」(後述)を開発した。知能テストを行ってみると、日常的な教具の使用によって子どもの知能指数が伸びたという。

医療の分野で功績をあげたモンテッソーリは「人間形成の一番大切な時期である幼児期には、自主性・協調性・社会性が育まれなければならない」と、精神病院で確立した教具と、それを用いた数々の教育メソッドを健常児の教育に生かしていこうと考えた。

こうして1907年、ローマのサン・ロレンツォという地域に「子供の家」(Casa dei Bambini)と呼ばれる教育施設ができる。これが、モンテッソーリ教育施設の第1号となる。


マリア・モンテッソーリの教育メソッドに共感した堀田和子さんは、1973年に「モンテッソーリ原宿子供の家」を開設。さらに1992年には「モンテッソーリすみれが丘子供の家」(写真)を開設した

当時のサン・ロレンツォは貧困層が暮らすスラム街。地域の子どもたちはまともな教育を受けていなかったが、モンテッソーリ教育に触れ、穏やかで落ち着きのある子どもへと成長していったという。

以降、彼女の確立した教育メソッドは「モンテッソーリ教育」あるいは「モンテッソーリ・メソッド」と呼ばれ、瞬く間にヨーロッパやアメリカ全土へと広まった。日本でもそれらがローカリゼーション(地域化)され、次第に日本国内でも注目されるものとなったのである。

日常生活・感覚・数・言語・文化の5領域──「教具」で感覚を刺激する

さて、海也さんは「子供の家」で活動するうえで、保育士の国家資格はもちろんのこと「モンテッソーリ教員」の資格も取得している。これはモンテッソーリ教員の養成コース(東京モンテッソーリ教育研究所付属教員養成コース、旧・上智モンテッソーリ教員養成コース)を履修することで授与される資格だが「教員養成コースで一番印象的だったのは、教具をマニュアル化する作業だった」と海也さんは振り返る。

「基本的に学校には教科書と呼べるものがなかったので、先生の話を聞いて、子どもに対する教具提供の具体的なやり方を自分自身でマニュアル化しながら、教員としての“援助”の仕方を習得していくんです」(海也さん)

前述した通り「教具」とは、マリア・モンテッソーリが開発した教育用玩具のことであり日常生活の練習・感覚・数(すう)・言語・文化の5領域それぞれに教具が開発されている。

「たとえばこれは私たちが“数の棒”と呼んでいるものです」(海也さん)


教具の1つである「数の棒」。10cm、20cm、30cm……と、最長1mの10本1組の棒は、10cm単位で段階的に長くなっていく

「数の棒」を使うとき、海也さんらはこんなふうにして子どもたちを援助しているという。

教員「1の棒はこれだよね。じゃあ、こっちの棒(2の棒)を1の棒で数えてみよう」

2の棒の赤い部分に合わせて、1。さらに青い部分に合わせて、2……。

教員「なら、これは2の棒だね」

「2の棒を理解したら、今度は3の棒。さらに“3の棒はどれだっけ?”、“この棒は何だったっけ?”というふうに、3段階の作業を繰り返すことで、子どもたちは感覚的に数に触れ、数を理解していくのです」(海也さん)


モンテッソーリ教育の基本的な5領域

「子供の家」では登園してから食事までの大半の時間を「自由活動」に割いており、子どもたちは教具棚から自分の使いたい教具を選び、思い思いの作業に取り組む。縫い物をする子もいれば、はさみで工作をしている子もいるし、もちろん他の教具で遊んでいる子もいる。「私たち教員は何かの作業へ誘うことはあるにせよ“これをやりなさい”などと命令することはありません」(海也さん)。

自分で選び、必要なものは自分で調達する。自分が得意なことを見つけ、反対にうまくいかなければそれが苦手なことだと気づく。苦手なことは、自分でその解決の方法を考える──。教具と自由時間によって得られるものは「柔軟な発想」、そして「問題解決能力」だ。

多様性を知る──異年齢保育の意義

しかしこれらの教具はモンテッソーリ教育を語るうえでの一要素に過ぎず、子どもの自主性・協調性・社会性を育むためのしかけはまだまだ存在する。異なる年齢の子ども達が混合した状態での保育、つまり「異年齢保育」もモンテッソーリ教育の特徴の1つだ。

2歳から小学生を対象とする「原宿子供の家」「すみれが丘子供の家」は、2〜3歳、3〜6歳、小学生を対象にした5つのクラスで編成されているが、幼稚園教育にあたる3〜6歳対象の「虹クラス」では、年齢ごとにクラスを編成しない「異年齢保育」を採用している。

「登園後の身支度のとき、子どもたちは年齢ごとで色分けされたバッジを着けてもらっているのですが、まだ小さいとうまく着けられない子もいるわけです。でも自分よりもちょっと年上のお兄さん、お姉さんがそれを手伝ってあげたりする。当然、自分がお兄さん、お姉さんになったときには、自然と同じことをしてあげたくなるでしょう」(海也さん)。

下の年齢の子どもが、上の年齢の子どもに自分の得意なことを教える場面に遭遇することもあるという。


「異年齢保育」の効果について海也さんは「計り知れないくらいにすごい」と話す

さらに海也さんは、子どもたちの「人間形成」における効能について、次のように話す。

「1学年に限られた同年齢クラスであれば、人よりも足の速い子、頭のいい子……みたいに、個人の能力だけにスポットが当たりがちですよね。普通はそこだけでアイデンティティが生まれやすいのですが、異年齢保育で生活してもらうと、おのずと“面倒見がいい子”、“やさしい子”、“人の気持ちを汲んであげられる子”……にもスポットが当たる。何よりもそうすることで、子ども自身の自尊心や自己肯定感が生まれやすいのです」(海也さん)

5領域ごとに存在する教具、自由時間、異年齢保育編成──。モンテッソーリ教育の現場には、子どもたちの自主性・協調性・社会性を育む「環境」が丁寧に整備されていた。では、この教育メソッドは、社会人(企業)にも応用することが可能なのだろうか。後編では、民間企業におけるモンテッソーリ教育の可能性と、教員のあり方について深掘りしていきたい。

モンテッソーリ教育は社会人にも応用可能か?──原宿子供の家&すみれが丘子供の家(後編)へ続く


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