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「社会をよくするため」にUXデザインはどう使える?──千葉工業大学 知能メディア工学科教授 安藤昌也さんインタビュー(前編)

2018年07月04日



「社会をよくするため」にUXデザインはどう使える?──千葉工業大学 知能メディア工学科教授 安藤昌也さんインタビュー(前編) | あしたのコミュニティーラボ
技術や価値観が目まぐるしく変化する昨今、企業がイノベーションを起こしていくためには、自社の社員が常に新しいものに興味を持ち、学び続けるようになるサポートや環境づくりが求められていくのではないだろうか。そして、そこにおける「学び」に対する飽くなきモチベーションを維持・向上させるためには、何をすればよいのか。
その1つのアプローチとなり得るのが、近年関心が高まる「UXデザイン」。千葉工業大学先進工学部知能メディア工学科教授の安藤昌也さんはこれまでUXデザインの実践・理論・教育のすべてに携わりながら、さまざまな研究を通じて新しい時代のUXデザインのあり方を問うてきた。今回は、安藤さんに人のモチベーションを高めるUXデザイン学について、前後編でうかがった。

学習意欲の向上にUXデザインのアプローチは有効か?――千葉工業大学 知能メディア工学科教授 安藤昌也さんインタビュー(後編)

「使い勝手」を超えた、環境づくりへの着眼

──安藤さんはUXデザインの実践・理論・教育のすべてに携わっていらっしゃいますよね。そもそもUXデザインをご自身の研究対象に選ぶまでには、どのような経緯があったのでしょうか?

安藤 学生時代、早稲田大学政治経済学部で経済学を学んでいました。所属ゼミは情報社会論。情報化社会が私たちの生活に及ぼすインパクトや、それに伴う経済の変化を主な研究のテーマにしていたんです。

その一方、情報化社会という言葉を日本ではじめてつくった「一般社団法人科学技術と経済の会」で、研究員として情報化社会やインターネットをテーマにした原稿を書くアルバイトをしたりもしていました。その後NTTデータ通信(現・NTTデータ)に就職したのですが、アルバイトのときのご縁でコンサルティング会社を立ち上げることになったのが1998年です。

──コンサルティング会社では、どんなお仕事を?

安藤 アクセシビリティ(編集部注:主にWebサイトにおける情報やサービスに誰でもアクセスできること)やユーザビリティ(編集部注:情報やサービスの使いやすさ・使い勝手)に関するコンサルティング業務です。

平たく言えば「使われないシステムや商品を使えるようにするためには?」ということをテーマとしたコンサルティング業務で、非常に多くの機会に恵まれました。

安藤昌也さん
千葉工業大学 知能メディア工学科教授 安藤昌也さん

フィールドワークや調査を繰り返し行うなかで、ユーザビリティ以前に、システムに対するユーザーの理解、利用の状況等々によってそのシステムが使われなくなるというケースが多いことに、気づいていったんです。

──「ユーザーの理解、利用の状況等々によって使われなくなる」とは、たとえばどのような状況を指すのでしょう?

安藤 一例として、社内オンライン教育システムの事例があります。20年ほど前の事例ではあるのですが、社内研修の動画教材をオンラインで見て受講できるというシステムを開発した企業があり、自社内で導入した、というものです。当時としては、技術的にも優れたものだったのですが、導入してもなかなか社員が使ってくれないということで、その原因を調べて欲しいという依頼がありました。

そこで現場調査をしてみたのですが、意外なことがわかりました。原因はさまざまにあったのですが、特徴的だったのは、社員が職場のなかで「業務中にイヤホンをすること」に心理的なハードルがあって、そのことが阻害要因となっていたんです。

本当の意味でそのシステムを活用してもらうには、使いやすさや技術的な課題を解決するだけではなく、その人がどのような環境・目的でそのシステムを使い、どういう結果を導き出そうとしているのかまで考えなければなりません。

当時、それはUX(User Experience)という言葉では呼ばれていませんでしたが、その先の自分の問題意識が芽生えた経験だったと思います。

事業者主体のUXのあり方が増えてきた

──一般的にUXとは「ユーザー体験」、UXデザインとは「ユーザー体験を設計すること」だと考えられています。安藤さんのこれまでのご研究から辿り着いたUX、そしてUXデザインとはどんなものでしょうか?

安藤 まずは使い手の「主観的」な感情・評価の側面から考えることが大前提です。

そして、それが「いつの体験」を指すのかがとても重要だと考えています。作り手(製品・サービスの提供者)は、長期的・時間的な視座に立ち、製品・サービスを使うユーザーの前後の“関わり”すべて含めた体験を、考慮しなければいけません。

UXデザインとは「その人の関わりのすべてを考慮してデザインしていく取り組みや方法論」を指します。

──作り手の側は、UXデザインを時間軸で考えなければならない?

安藤 ユーザーはそれぞれ異なる基準で体験を評価します。

2010年に世界のUX研究者による国際会議が開催され、その成果をまとめた『UX白書』というものがあり、そこには体験期間の観点からUXを「利用する前の“予期的UX”」「利用中の“瞬間的(一時的)UX”」「利用後の“エピソード的UX”」「利用時間全体を示す“累積的UX”」の4つに区分けしています。

これらはあくまで「使用体験のどの範囲の期間に着目してUXを知覚するか」という期間モデルですが、重要なのは、同じ体験であっても対象とする期間ごとに知覚されるUXはそれぞれ異なるということです。それはつまり、対象とする期間によって製品・サービスに対する評価のメカニズムが異なっているということです。

──2013年頃からは「利他的UX」というアプローチを提唱されていますね。どのような背景があったのでしょうか。

安藤 これまでのUXで解決する主な課題は「タスクの実現」でした。つまり、それまで「できなかったこと」が「できる」ようになるということに重きが置かれていたのです。

Apple社のiPhoneは、製品そのものが優れたUXだと言われていますが、もっと言うとiPhoneをはじめとしたスマートフォンの普及に伴い「できなかったこと」が「できる」ようになり、たしかに生活は便利になったといえるでしょう。

安藤昌也さん
できることが増えた分、周りの人にどう目を向けるかを「利他的UX」という観点で研究しているという安藤さん

でも一方で、多くの人がスマートフォンばかりを見るようになって、周りのことに目を向けにくくなったという側面もありますよね。もっと言うとスマートフォンに限らず、あらゆる製品・サービスの登場によって、身のまわりの「できなかったこと」がほとんど「できる」ようになっています。

私はUXの専門家として、UXの知見で社会に山積した問題解決を行いたいと考えました。その課題意識から生まれたのが新たな時代のUXデザインと定義している「利他的UX」です。

誰かを助けたくなるデザイン──利他的UXとは?

──利他的UXとはどんなものなのでしょう?

安藤 利他的UXは、UXデザインの知見を他者の援助のために使うこと。「誰かを助けたくなる(助けやすくなる)デザイン」とも呼んでいます。

利他的UX宣言

「利他的UX」は、気持ち良く、うれしくなるような 助けあう体験のことです。多くの人が楽しく助けあう社会は、きっと“いい社会” だと考えています。私たち安藤研究室では、この利他的UXを実現するための研究とデザイン活動を進めていきます。 また、この取り組みを普及する努力をします。これにより、少しでも多くの人が利他的にふるまえる社会を目指していきます。

2016年7月13日 安藤昌也

UXデザインは本来、人のモチベーションを喚起して次の行動へとつなげることを得意としていますが、その技法を用いることでユーザーを社会貢献的な活動に誘導することができると考えています。

──これまでにどのような成果が生まれていますか?

安藤 研究段階のため、成果を探っている最中ではありますが、2017年12月、ワークショップデザイナーのタクザワケイタさんらプロジェクトチームにより実証実験が行われ、メディアなどでも報じられた「&HAND(アンドハンド)」構想も、利他的UXと言えるものですね。

これはLINEとBeaconデバイスを使い、電車のなかに「席に座りたい妊婦の方」がいることをLINE経由でその周囲にいる誰かに届けることができ、スムーズに席を譲ることができるサービス。企画段階でプロジェクトチームに利他的UXについてお話し、企画をサポートさせていただきました。

あと、千葉工業大学の学生たちとともに学内プロジェクトとして行ったのが「津田沼CPRプロジェクト」です。これは千葉工業大学学内でのAEDと心肺蘇生法の認知を高めるためのプロモーション企画として実施しました。

体験をより良くするUXデザインから、社会をより良くする利他的UXデザインへ──。後編では、利他的UXとして実施された津田沼CPRプロジェクトについてうかがうとともに、学びをサポートするUXデザインのアプローチについて指南していただく。

学習意欲の向上にUXデザインのアプローチは有効か?――千葉工業大学 知能メディア工学科教授 安藤昌也さんインタビュー(後編)へ続く

安藤昌也(あんどう・まさや)

千葉工業大学 先進工学部 知能メディア工学科 教授
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。NTTデータ通信株式会社(現株式会社NTTデータ)を経て、1998年から アライド・ブレインズ株式会社でユーザビリティ・アクセシビリティを中心としたコンサルティング業務に従事。その後、早稲田大学非常勤講師、国立情報学研究所特任研究員、産業技術大学院大学産業技術研究科助教などを経て、2016年4月より現職。ユーザエクスペリエンス、人間中心設計、エスノグラフィックデザインアプローチなどの研究・教育に従事。現在では、“利他的UX”を提唱し「やってあげるデザイン」の原理の研究などに注力している。NPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-net)理事等を歴任。同機構認定 人間中心設計専門家。


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