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学習意欲の向上にUXデザインのアプローチは有効か?――千葉工業大学 知能メディア工学科教授 安藤昌也さんインタビュー(後編)

2018年07月04日



学習意欲の向上にUXデザインのアプローチは有効か?――千葉工業大学 知能メディア工学科教授 安藤昌也さんインタビュー(後編) | あしたのコミュニティーラボ
製品・サービスと作り手の“関わりのすべて”をデザインする「UXデザイン」。そして、UXデザインの新時代となっていく「利他的UX」。前編では千葉工業大学先進工学部知能メディア工学科教授の安藤昌也さんに、UXとUXデザインの基本的なあり方をうかがった。後編では、人の学びに対するモチベーションを高めるうえでのUXデザインのアプローチは有効なのか、引き続きお話を伺う。

「社会をよくするため」にUXデザインはどう使える?──千葉工業大学 知能メディア工学科教授 安藤昌也さんインタビュー(前編)

「あえて、ださくする」も有効な手立て!?

──「誰かを助けたくなる(助けやすくなる)デザイン」という利他的UXの考え方をベースにはじまったという「津田沼CPRプロジェクト」は具体的にどのような試みなのでしょうか?

安藤 このプロジェクトはAEDと心肺蘇生法の認知を高めることを目的としています。

まずは学生たちと心肺蘇生のシミュレーションを行いました。ここ、千葉工業大学の津田沼キャンパスにもいくつかのAEDが設置されていますが、AEDがどこにあるのかさえ学生に知られていない。

さらに、研究室のある20階建てのビルの上階からAEDのある別の建物の1階までをエレベーターを使って往復すると最短でも6分間くらいかかります。エレベーター待ちが日常的に起こっているので、現実にはもっとかかると考えられます。もし、AEDの場所がわかっていなかったり、とっさの出来事にパニックになっていたりしたら、もっと時間はかかるでしょう。

心肺蘇生は1分間遅れるだけで社会復帰率、まあ生存率と考えてもおかしくないですが、これが10%下がると言われています。シミュレーションでは「Coaido119(コエイドイチイチキュー)」という、119番通報をしながら周囲にいる人にSOSを発信し、心肺蘇生法ができる人とGPSなどを使ってAEDの場所を示し、AEDを持って来てくれる人とをつなぐ緊急情報共有アプリを使いながら、救命者を要請するシミュレーションを実施。その結果、「Coaido119」を使うことで救命活動までの時間を4分間くらいに短縮できました。

──そうした活動があることで、研究室の学生たちも救命活動を自分ゴト化できそうですね。

安藤 そのあとは、他の学生たちにもAEDの場所を認知してもらうために「救命戦士ソセイダー」というヒーローの等身大パネルを制作し、学内への広告を行いました。

Twitterでキャンパスにソセイダーが現れたことをPRし、認知を高めた

それからソセイダーに扮装した学生に講義中の授業部屋やキャンパス内に出没してもらい、他の学生たちに興味をうながしました。学生の人通りが多いロビーでは心肺蘇生法のムービーを上映し、パネル展示も行っています。

余談ですが、プロジェクトで利用したパネルにもUXデザインが施されているんですよ。

通路の導線を確保する仕掛け
「生存確率わずか30%」の下の文字を小さくすることで、通路の導線を確保する仕掛け

パネルの下のほうの文字が小さいと感じると思いますが、これはあえて文字を小さくしています。そうすることで、パネルを見ている人をパネル近くに誘導し、パネルを見ている人の後ろ側のスペースを確保し、通路を通りやすくしているんですよ。

──ソセイダーは手づくり感のあるユニークなデザインをしていますね。

安藤 実は利他的UXデザインの考え方では、この「だささ」も重要なんですよ(笑)。

これまで、SNS上で寄付や社会貢献活動への協力を依頼する際の、情報やデザインの違いによって、情報を見ている人の利他的行動を促すことができるかについて、実験をする研究を行っています。この時、例えば寄付の依頼ページの情報をリッチにして、大手サイトのようなデザインになればなるほど、依頼情報に対する印象が悪くなってしまう。悪くなるというのは、他人ゴトのように感じてしまうという結果が出ました。

つまり、「他人のために何かをする取組み」の場合、お金のかかったプロモーションのような表現になると、人は「自分は関係ない」と他人ゴトに感じてしまいがちになることがわかったんです。

安藤昌也さん
千葉工業大学 知能メディア工学科教授 安藤昌也さん

だからと言って「なんでもかんでもださくすればいいのか」と読者に思われるとデザインを研究としている人間として困るのですが(笑)、利他的UXでは“自分ゴト化してもらう”という観点から、ユーザーの思いを類推しながらデザインするというアプローチが、非常に重要であると理解していただきたいです。

変革経済では「気づかせ、導く」学びが重要視される

──本特集では「学びをもたらす挑戦をエンパワーする方法」をテーマに置いています。学習コミュニティーでも「利他的」がキーワードになるかもしれませんね。

安藤 学習コミュニティーも本来、お互いの関係性のなかで助け合い、学び合っていくという利他的なものだと思います。解決の機能をビジネスの側が用意するのではなくて、ユーザー(学習者)自身が主体的に動いてもらう場をつくる──そうした発想が、これからますますビジネスの文脈でも重要になってくると考えています。

ジョセフ・パインとジェームス・ギルモアが1999年に発表した『経験経済(原題:The Experience Economy)』という書籍のなかでも、過去、そして今後起こりうる経済システムとして5つのモデルが描かれています。

まず、自然界から得られる代替可能な産物を中心とした「農業経済」。これがコモディティ化したことで、工業製品を作る「産業経済」が生まれた。それがまたコモディティ化したことで、役務(サービス)を売る「サービス経済」が生まれた。

その次が、書籍のタイトルにもなっている「経験経済」。これはすなわちUXのことです。書籍のなかではさらに先のカスタマイゼーション(ユーザーのニーズに適合するもの)として動いているのが「変革経済」と位置づけています。

「変革経済」において、企業が売る商品は「なりたい自分になる」(=自己変革する)ことを可能にするもの。自己変革を起こすための企業からの「誘導」──すなわち「(ユーザーに)気づかせ、導く」ことが重要になっていくというのです。

──その誘導(気づかせ、導く)ためのトリガーが「学び」であると?

安藤 はい。どうやって生きていくのか、はたまた、どうやって自らの価値基準を変えていくのか──。「学び」によって人をそのように誘導する製品・サービスをユーザーが求めていく、そんな社会になると思いますし、今まさにそれが起こっている最中だと感じます。

学びを活性化させるUXのアプローチ

──「学び」がこれからのUXデザインのアプローチで、ユーザーのモチベーションを変えたり高めたりもできるのでしょうか?

安藤 たとえばオンライン講座やスマートフォンアプリなど、インタラクティブシステム(編集部注:人間の反応によりコンピューターなどが反応、切り替わっていくシステムのこと)におけるUXの考え方の1つとして「自己効力感(SE、Self-Efficacy)」と「製品関与(PI、Product Involvement)」から考えるアプローチがあります。これは「学びのモチベーションを上げる」といったときにも応用できると思います。

──具体的にはどの応用可能でしょうか?

安藤 この図は、インタラクティブシステムを利用するユーザーのモチベーション分類です。

縦軸は自己効力感(SE)。例としては「パソコンでシステム上のトラブルが生じたときに、自分で問題に対処できると思うか」といったもので「できる感」とも言い換えられるでしょうか。

横軸は製品関与(PI)で、対象製品に対する関心の度合いです。感情的・情報的・認知的の3つの側面から測定され「やってみたい!」と思わせるような「興味」とも言い換えられます。

インタラクティブシステムを利用するユーザーのモチベーション分類
インタラクティブシステムを利用するユーザーのモチベーション分類 参考:安藤昌也, 『UXデザインの教科書』, 丸善出版, 2016

さて、インタラクティブシステムのデザインでは、ユーザーを4つに区分けすることができます。

1つは、興味(PI)もできる感(SE)も高い「マニアユーザー」。システム提供者はここを目指したいと考えます。残りの3つは、興味が高くできる感が低い「期待先行ユーザー」、興味が低くできる感が高い「冷静・合理的ユーザー」、そしてどちらも低い「ミニマム利用ユーザー」です。

スマートフォンユーザーに例えると、期待先行ユーザーは、製品に対する評価は好意的だけど、問題・不満を感じやすいタイプ。この人をマニアユーザーにするには「できる感」を高めないといけません。

冷静・合理的ユーザーは、その製品を利用することに問題は感じていないけど、製品に対する関心が低く「使えればいいか」と考えるタイプです。この人をマニアユーザーにするには「興味」を高めないといけません。ミニマム利用ユーザーは、最低限の利用ができればよいと考えるタイプで、「できる感」と「興味」の両面から考えなければいけない。

インタラクティブシステムにしても学びにしても、重要なのは「その対象がどこに分類されるのかを理解すること」。それがわからないと「興味」を高めるべきなのか、「できる感」を高めるべきなのか、その方向性がわかりませんから。

──お話を聞いていると、UXデザインはUXデザイナーと呼ばれるような「専門職」に限ったものではなく、新規事業担当者や教育担当者など、幅広い人たちに応用が可能なのではないかと感じます。

安藤 そうですね。専門職以外にも十分応用は可能だと思います。ただ、UXを自社の製品・サービスに導入する企業・部門というのはすでにたくさんありますが、「UXデザインをやった気になる病」みたいな事例が多いのも事実です。

安藤昌也さん
UX、UXデザインという考え方が広まってきた分、本来の考え方から外れた誤った考え方、使い方も出てきていると指摘する

また、もちろんUXデザインによって生まれた製品・サービスのすべてがそうだとは思いませんが、誤用をはらんだUXやUXデザインが増えているという印象があります。

UXデザインは本来、ユーザーのことを第一に考えるべきなのに、いささか目先のことばかりを追いかけているだけの、たとえば「より売れるためのUXを開発しよう」というような「事業者主体のUXのあり方」があまりにも増えてきた。

とにかく忘れていただきたくないのは、対象はあくまで「生活者」であること。そこに目を向けるのがUXのもともとのスタートなのですから。UXデザインというものがなかった時代、そこに目を向けないがためにユーザーが離れてしまった製品・サービスが数多く生まれました。その反省をもとにUXデザインという素晴らしい考え方が生まれた。

「生活者の関わりのすべてを見る」ということを皆さんに最低限心がけていただきたいです。

「社会をよくするため」にUXデザインはどう使える?──千葉工業大学 知能メディア工学科教授 安藤昌也さんインタビュー(前編)

安藤昌也(あんどう・まさや)

千葉工業大学 先進工学部 知能メディア工学科 教授
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。NTTデータ通信株式会社(現株式会社NTTデータ)を経て、1998年から アライド・ブレインズ株式会社でユーザビリティ・アクセシビリティを中心としたコンサルティング業務に従事。その後、早稲田大学非常勤講師、国立情報学研究所特任研究員、産業技術大学院大学産業技術研究科助教などを経て、2016年4月より現職。ユーザエクスペリエンス、人間中心設計、エスノグラフィックデザインアプローチなどの研究・教育に従事。現在では、“利他的UX”を提唱し「やってあげるデザイン」の原理の研究などに注力している。NPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-net)理事等を歴任。同機構認定 人間中心設計専門家。


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