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社会人に必要な観察力と探究心を研ぎ澄ます──「探究する力」の育み方とは?(前編)

2018年08月08日



社会人に必要な観察力と探究心を研ぎ澄ます──「探究する力」の育み方とは?(前編) | あしたのコミュニティーラボ
エリアを決めたら、あてもなく、足の向くまま、気の向くまま、まちを歩く。自分のアンテナに引っ掛かった「面白い物事」を拾い集め、メンバーと共有する。そこから何が生まれてくるのか? 長年、子どもたちのプロジェクト学習を支援してきた市川力さんが1年前から大人を対象にした「探研移動小学校」を主宰している。参加者と市川さんに「学び」の原点、「探究する力」について聞く。

「みつける」「あつめる」「あらわす」の三位一体──「探究する力」の育み方とは?(後編)

あてもないブラブラ歩きで思いもよらない発見

東京の東向島に数名の男女が集まった。「永井荷風『墨東綺譚』に描かれたまちを歩いてみよう」、参加者の一人、田中美帆さんは当日そう聞かされた。とはいえ、あらかじめルートが決められているわけではない。

『墨東綺譚』を読んでなくていい。とりあえず、どこへ行くあてもなく、足の向くまま、気の向くまま、歩いてみる。各々の目に飛び込んできた偶然の出会い。それを面白がる。市川力さんが主宰する、大人の“探究”マインドを掘り起こす「探研移動小学校」だ。

田中さん、さっそくの発見。日なたぼっこしているネコに吸い寄せられるように近づいていったら、ナスのプランターがあった。「伝統野菜寺島ナスを育てています」と地元の人の手描きのポスター。このあたりが、かつて寺島と呼ばれていたことをはじめて知る。そしてポスターには「なすがまま」の文字が……。

田中美帆さん
「探研移動小学校」参加者の1人、田中美帆さん

「今日のテーマがもう決まったね! とみんなで笑いました」と振り返る田中さん。田中さんは会社の仕事とは全く関係なく、民設民営の文化施設、アーツ千代田3331の「あてもなく研究所」というプロジェクトスクールに自主的に参加している。“なすがまま”と“あてもなく”は近い。

なぜ“あてもなく”なのか。「チャンスの神様って不意にやってきますよね。目的を明確にして計画を立て、きちんと時間通りに動いているときより、とりあえず、あてもなく、なんとなくブラブラしているときのほうが、ひょんなきっかけで面白いことを発見したり、アイデアがひらめいたり、時には人生を変えるような出来事にも出会えるかもしれません」。

「タイミングは求めていない時にやってくる。そんな“あてもない時間のススメ”活動をプロジェクトスクールで“なんとなく”考えていました。市川さんの探研移動小学校に参加したのは、まさにうってつけの “フィールド・ウォーク”だったからです」と田中さんは説明してくれた。

Kairos Zine
「あてもなく研究所」が発行している「Kairos Zine」

なすがまま歩き続けていると、小さな神社があった。だが、自転車置き場で本堂の前が塞がれている。ぐるっと道を回ってみたら、民家脇の細い路地の奥に鳥居。横のマンションの壁には、永井荷風が描いた昭和12年の、遊郭の地図が説明書と共に掲示してあった。『濹東奇譚』の中に描かれていた稲荷をたまたま見つけてしまったのだ。ネコ→「なすがまま」→稲荷と、偶然の連鎖を発見した。

田中さんは探研移動小学校に参加して「本当にあてもなく歩いていたら、面白いものがどんどん出てくるのでびっくりしました」と話す。「永井荷風って何のこっちゃ? とぜんぜん無知だったにもかかわらず」。

「わたしは朝起きて熱いシャワーを浴びるとアイデアがひらめいていたんですよ。でも、あるとき、そう意識した途端、ひらめかなくなりました。アイデアをひらめかそうという“あて”を持っちゃったんですね。“あてもなく”って本当に大事なんだと実感しました」。

フィールドワークの様子
探研移動小学校、フィールドワークの様子

いつのまにか観察力と表現力が研ぎ澄まされる

市川さんは2017年までNPO法人東京コミュニティスクール(以下、TCS)で小学生を対象に「プロジェクト学習」に取り組んでいた。発見を楽しみ、自分の頭で考え、他者と語りあったり、試したりしながら、多様な解が考えられる課題に取り組む学びだ。このプロセスを通じて、感性を研ぎ澄まし、論理的に判断する力、そして率先して動き、表現する力を育む。歩きながら気づき、観察力を養うフィールドワークは、子どもたちと実践していた方法にほかならない。

「2012年くらいからでしょうか、TCSを見学して“若い社員に同じようなことを経験させたい”とおっしゃる企業の方が増えてきたんです」と市川さん。「小集団の大人によるプロジェクト学習には可能性がある、と思いました。ワークショップ形式の研修も必要ですが、そもそもそれ以前の問題として、“思いつき”や“ひらめき”をもたらす観察力と探究心が無ければ前へ進めません」。

「ならば、まちを歩いて自分が何に気づくか、気づかないか、観察力を養い、思いつきを喋り、試してみるフィールドワークをすればいい。それではじめたのが探研移動小学校なんです」。

田中さんと市川さん
取材中の田中さんと市川さん。探研移動小学校の活動について、具体例を交え語ってくれた

なぜ歩くのか。古来、哲学者も科学者も文学者も経営者も、よく歩いた人は多い。市川さんによれば「歩くと思いこみのバリアが解かれる」。しかも、多種多様な情報が埋め込まれているまちを歩けば、誰でも何かしら自分のアンテナに引っかかる物事に出合いやすい。

視覚情報だけではない。まちを歩けば、音や匂いや手ざわりも含め五感がフル動員される。気づいた物事を後でマップに落とし込むと「自分がこんな面白い発見ができるとは」と多くの参加者は嬉しくなる。

1年前から毎週のように市川さんは探研移動小学校を開いている。「別にきちんとしたプログラムがあるわけではないんですが、だんだんルールみたいなものができました」。エリアは集まる人たちが決める場合もあれば、こちらで指定する場合もある。駅に集合してスタート。どこをどう歩くかは、そのつどメンバーの思いつき次第。

それぞれ面白いと思ったところを写真に撮り、後で五七五の俳句スタイルの17文字で面白さを表現。それをマップに貼り、みんなで語り合う。「アウトプットとシェアリングで、知らず知らずのうちに観察力と表現力が研ぎ澄まされるんです」と市川さんは言う。

原則として同じ場所を3回歩く。それも探研移動小学校のルールだ。1回目は発見を楽しみながらただ歩く。後で皆と発見をシェアしたり、気になったことをネット検索などで調べてみる。さらに面白そうなところが見つかり、再び歩く。すると自分なりの仮説がわく。3回目は、その仮説を確かめるために事前調査し、いよいよオリジナルな発見を目指す。ここから真の「探究」がはじまる。

市川さん
「みんなで歩いていても、見つけるものはそれぞれ異なる。それがおもしろいんです」と市川さん

市川さんは「子どもたちとやっていたのと同じ」と強調する。「まちを歩きました。変な謎を見つけました。図書館で調べました。何か見えてきました。もう一度歩いてみました。人に会って話を聞きました。自分なりになぜなのか考えてみました。まとめて発表してみるともっと面白い謎が増えました──これがプロジェクト学習なんです」

一回の取材ですべての情報を得ようとすると既に描いていた思いこみを確認することに陥りがち。だから大人こそ同じ場所を3回歩いて“探究”の方法を体感する必要がある。市川さんはそう指摘する。そして探究する力とは“好奇心に導かれるまま、自分の思いつきを自分で動いて試してみる力”。なにも特別な才能は必要としない。本来だれにも備わっているはずの力を引き出せばいいのだという。

後編では、「TCS」から「探研移動小学校」に至った市川さんのバックボーンを探ることによって、この活動の意義をさらに掘り下げてみたい。

「みつける」「あつめる」「あらわす」の三位一体──「探究する力」の育み方とは?(後編)へ続く


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