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「みつける」「あつめる」「あらわす」の三位一体──「探究する力」の育み方とは?(後編)

2018年08月08日



「みつける」「あつめる」「あらわす」の三位一体──「探究する力」の育み方とは?(後編) | あしたのコミュニティーラボ
まちを歩いて観察力や探究力を養う、大人対象の「探研移動小学校」を主宰する市川力さん。後編ではなぜ市川さんがこの活動に至ったのか、そのバックボーンを探ってみたい。そこから浮かび上がってくるのは、子どもにとっても大人にとっても変わらない、生きるために大切な本当の学びとは何か、という問題だ。

社会人に必要な観察力と探究心を研ぎ澄ます──「探究する力」の育み方とは?(前編)

米駐在員の子弟のプロジェクト学習をサポート

市川力さんは大学院で認知心理学を専攻したのち、1990年から13年間、アメリカのシカゴなどで日本企業の駐在員の子どもたち向けの塾教師をしていた。

日本人駐在員の居住区は高級住宅街。そうした地域のパブリックスクールはレベルが高い。1クラス12人程度の少人数で、一方的に知識を伝授される受け身の学びではなく、能動的に探究心を働かせ、人とコミュニケーションをとりながら課題を解決していく「プロジェクト学習」を導入していた。もともと英語のハンデがある日本人の子どもたちは、なかなかそうした授業についていけない。

「宿題も、日本の学校のように解答の決まったドリル的なものではなく、課題解決型のタスクなので父母が手助けできません。そういった子どもたちを塾で面倒みていました」。

「現地の学校へも出向いてプロジェクト学習の方法を吸収しました。小学校3年生から高校生くらいまでのプロジェクト学習をサポートすることができたのが、今から思えば自分にとってのOJTでした」と市川さんは振り返る。

子どもたちが発見を楽しみ、自ら動いて疑問を解明する主体的な学びを支援する仕事じたいはとてもやりがいがあったが、いつか虚しさも覚えるようになった。

市川さん
市川さんはアメリカでの13年間でプロジェクト学習を吸収できた、と振り返る

「駐在員の子どもたちはいずれ帰国して日本の大学に入ります。プロジェクト学習も順調で、英語もできるようになると、これくらいの英語力があれば何々大学に受かるからもういいです、と親御さんに言われてしまう。べつに投げ出したわけではないですが、自分のしたい仕事と求められるアウトプットの乖離にだんだん嫌気がさし、他の人に渡して日本に戻ったのが40歳のときです」

「自分で考えろ、って答えを教えてくれなかった」

市川さんが帰国した2003年は、ちょうど「ゆとり教育」の反動で学力低下が喧伝され、まるで再び「詰め込み教育」のほうに振り子が揺り戻るかのような時期。「こんな状況ではプロジェクト学習なんて見向きもされない」と思った市川さんはもう教育の仕事を離れ、知り合いの伝手で農家に転身しようと考えた。

しかし山梨県の田畑で農作業を手伝っていると、思いがけない出会いがあった。もともと日本の学校教育に懐疑的で、我が子にはもっと実践的で有意義な学習をさせたい比較的裕福な層の親が、子どもたちに農業体験をさせていた。市川さんがたまたまその子たちと自然の中で遊んでいたら「こんなに明るい表情で生き生きしている子どもたちを見たのは久しぶり」と親に感謝された。

市川さん
「“学び”の原点は子ども時代にあります。フィールドワークによって観察力や探求心を取り戻すことが第一歩です」と市川さん

その親はプロジェクト学習を実践する全日制のマイクロスクール設立の計画を立てており、市川さんのアメリカでの経歴を知ると協力を依頼した。

こうして2004年、東京都中野区に小学生を対象とする「東京コミュニティスクール」(2006年にNPO法人、以下TCS)が誕生。市川さんは子どもたちに「おっちゃん」と呼ばれ、ここで再び13年間、学びの現場にたずさわった。

子どもたちは学区の小学校に籍だけ置きながら6年間、TCSに通う。だが、「まちに出る→謎を見つける→図書館で調べる→みんなで話し合う→再び現場へ行く→人に話を聞く→考えをまとめる→発表する」といったフィールドワークに基づく学びに慣れている子どもたちにとって、卒業して進学する中学校は「違和感のかたまりのようです」と市川さんは語る。

「ただ、それが実社会に出るためのいい練習になっています。これが日本の現実だとわかり、冷静で相対的な目が育まれ、かえって温室育ちになっていない。卒業生たちがよく言うのは“おっちゃん、中学・高校は楽だよ、だって先生が答えを教えてくれるんだもん。おっちゃんは自分で考えろ、って答えを教えてくれなかったけど”」。

ちなみに文部科学省の「新しい学習指導要領の考え方」によれば、AIに代替できない人間の能力の強みは「自ら目的を設定し、その目的に応じて必要な情報を見いだし、自分の考えをまとめたり、相手にふさわしい表現を工夫したり、答えのない課題に対して、他者と協働しながら目的に応じた納得解を見い出したりする」能力であり、それらを育むための手段として「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善)を掲げる。教育行政も迷走の果てに、ようやく本質的な学びの現場に学校を引き戻そうとしているのだ。

「生きる」「働く」「学ぶ」の間に線を引かない

前編で紹介したように、市川さんが1年前から取り組んでいる「探研移動小学校」は、TCSで実践してきたフィールドワークの大人版にほかならない。あえて違う点をいうなら、子どもの頃の“やわらか頭”を失い「面白い物事を見つける力」が衰えてきた大人に対して、そこらじゅうにいくらでもネタが転がっている“まち歩き”というフィールドを提供することによって、観察力や探究心を取り戻してもらおうとしているところ。

市川さん
市川さんがまとめた「探究の基本図」

1年間実践してきて、市川さんは「探究の基本図」をまとめた(図参照)。とりあえず、あてもなく、足の向くまま、気の向くまま、歩き出す。すると物事がアンテナに引っ掛かり、みつかり、あつまる。気になったことは、戻ってから調べてあつめる。こうしてみつけたことを確かめるためにまた歩く。この繰り返しの後に、言語やビジュアル、場合によっては演劇のような身体パフォーマンス、または実物のプロトタイプであらわし、みんなにプレゼンし、フィードバックをもらう。

この「みつける」「あつめる」「あらわす」の三位一体から、新たな「思いつき=仮説」が浮かび上がり、本格的な探究がはじまる。こうした方法論をもとに、市川さんはビジネスパーソンに資する取り組みとして探研移動小学校の活動を広めていくつもりだ。

大人にとって理想的な「学び」とは何だろう。市川さんは「子どもと一緒に学んだから得たことなのですが」と前置きした上でこう話す。「生きることも、働くことも、学ぶことも一緒。そう思えるようになってきたんです。たぶん苦しくなるのは、すべてに線を引いてしまうから。探研移動小学校も、なんとなく趣味ではじめたような活動ですが、そこからいつのまにかいろいろな仕事が生まれています。子どもって本当に生き生きしているときは、遊びも学びも一緒なんですよ。それが丸ごと生きることだし。子どもに教わったことは多いです」

社会人に必要な観察力と探究心を研ぎ澄ます──「探究する力」の育み方とは?(前編)


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