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「一山一家」が導く夕張の未来 ──北海道夕張市・よそ者と地域が交わり課題に挑む(前編)

2018年07月10日



「一山一家」が導く夕張の未来 ──北海道夕張市・よそ者と地域が交わり課題に挑む(前編) | あしたのコミュニティーラボ
自治体で唯一の財政再生団体となった北海道夕張市こそ、日本一の課題先進地域かもしれない。職員みずから身を切り、市民も高い負担を強いられているが、裏を返せば未来の縮小ニッポンを先取りしているともいえるのではないか。

その一方でピンチをチャンスに変える新しい風も吹きはじめた。その姿を知ることは、あらゆる地域再生の取り組みにヒントとなるだろう。今回は「夕張市の今」を取材し、前後編でお伝えする。前編では、夕張市が自治体としてどんな将来ビジョンを描き、未来への希望を取り戻そうとしているか探ってみたい。

ギークな若者が創り出す!? これからの夕張コミュニティーの可能性
──北海道夕張市・よそ者と地域が交わり課題に挑む(後編)

若年世代の将来不安を解消するまちのビジョン

約350億円の借金を抱え財政破綻してから10年が過ぎた北海道夕張市。国管理下の財政再生団体として、大幅な人員削減、市長および職員の報酬カットをはじめ、行政サービスの切り詰め、補助金の打ち切り、公共施設の閉鎖、水道料金の引き上げ等々、市民にも負担を強いる厳しい緊縮財政に取り組んできた。

炭鉱で栄えた夕張市の人口は最盛期の1960年、12万人に迫る勢いだった。1990年にすべて閉山してからは「炭鉱から観光へ」と舵を切ったが、いわゆる「ハコもの」行政が失敗。不適切な会計処理も重なり2007年全国で唯一の財政再建団体に陥った。破綻直前に1万3,000人だった人口は現在8,300人を下回っている。

住民基本台帳をもとに作成した夕張市の月別人口・世帯数の推移
住民基本台帳をもとに作成した夕張市の月別人口・世帯数の推移。最盛期だった1960年以降、閉山が相次ぎ、人口・世帯数は急下降した(2018年は4月末時点、2012年7月9日より住民基本台帳法改正に伴い外国人住民が含まれる)

2027年の完済予定に向けて、市は着々と借金を返しているところだが、若年世代にとっては「その先」の未来が見えにくい。それが人口流出の要因になっている。

夕張市産業振興課の佐藤学さんは、夕張市民の現状を次のように語ってくれた。

「高齢者の方々は、まちの縮小をずっと見続けてきたので、比較的冷静で達観されている一方、小中学生のお子さんをもつ若い世代では、ずっと夕張に住み続けられるのか、不安と不満を抱える方が増えているのです」(佐藤さん)

佐藤学さん
夕張市産業振興課の佐藤学さん

破綻直前に6校あった小学校、3校あった中学校はいずれも1校になった。高齢化率は50%を超え、将来負担が重くのしかかってくることを若い世代は敏感に受け止めている。創立80周年を迎えた北海道夕張高校への進学者は減り、卒業生も市外への転出者が多い。

まちとしての将来ビジョンをどう描くのか。若年世代の不安と不満を解消するには、それが欠かせない。市は2016年3月に総合戦略(夕張市地方人口ビジョン及び地方版総合戦略)を策定した。

戦略の5本柱は「低家賃住宅の整備による若者の定住と子育て支援」「地域で活動しまちづくりに多様な関わりをもってくれる関係人口の創出」「地域資源を活用した働く場づくり」「幼稚園から高校まで連携した人材育成、地域外との交流による知恵の修得」「コンパクト化・拠点形成による持続可能なまちづくり」といったものだが、これらの施策は格別に目新しいものではない。注目すべきなのは、その全体を貫く基本理念として、現代版「一山一家」(いちざんいっか)のまちづくりを掲げているところだ。

ほどよい距離感で互いに助け合えるコミュニティー

「一山一家」とは何か。それは「産炭地ならでは」の生活文化に根ざした考え方にほかならない。

佐藤学さん
2007年の財政破綻以前より夕張市役所に勤める佐藤学さん。次なる一手として、総合戦略策定の中心的役割を担った

かつて炭鉱(=やま)はそこで働く男たちだけでなく、集落や家族も含めて1つの共同体として成り立っていた。ときには生命の危険と隣り合わせの過酷な労働だったからこそ、“やま”全体が1つの家族のようにして互いに助け合い、強く結びついていた。そのような暮らしのあり方を「一山一家」と呼んだ。

それをそのまま現代によみがえらせようとしているわけではない。かつてのように他人同士が家族になるほどの濃密な関係ではないが、ほどよい距離感を保ちながらも、互いを思いやれるような関係性のまちを目指す、ということだ。

佐藤さんは「“人口を増やすことだけが夕張の発展と住民の幸福ですか?”と、実は問いかけている」と「一山一家」に込めた思いを語る。

「人口推計の試算では2060年に1,778人に減少する人口を、施策効果によって2,592人に食い止める。それが目標値ですが、人口減少そのものを止めることはできません。ならば、少ない人口だからこそ、顔の見える者同士、互いに助け合って幸せに暮らせるコミュニティーを目指そう、と」(佐藤さん)

夕張市における人口の将来展望
夕張市における人口の将来展望。夕張市「夕張市地方人口ビジョン及び地方版総合戦略」より

「炭鉱の最盛期には全国から人が流れてきました。異文化を受け入れてきた先人のアイデンティティを現代版に直すと“地域の外から知恵を取り入れる文化”です。“カネもない、ヒトもいないからできない”の言い訳はもうやめにして、“問題を先送りせず挑戦する”姿勢になりたい。そこから外部との交流が生まれ、知恵が出てくるはずです」(佐藤さん)

子どもたちの希望づくりと眠れる地域資源の活用

具体的な施策として人材育成を見てみよう。

夕張市の小中学校は「市教育委員会」が管轄、道立北海道夕張高校は「北海道」の所管である。この断層を解消し、希望をもって進学できる高校を存続させるため、佐藤さんは「高校魅力化プロジェクト」を打ち出した。

北海道夕張高校の生徒たちが月額3,000円で通える公設塾「夕張学舎キセキノ」を2018年4月に開設。授業の予復習や受験勉強、進路相談のみならず、住民と交流し地域課題を教育素材にしたり、外部講師を招いたりするなど、自主的な学びの意欲を養う。

PTAワークショップ
高校魅力化プロジェクトのなかで行われた夕張高校PTAワークショップ(画像提供:夕張市)

平日の午後3時半から9時まで開講し、「地域おこし協力隊」の3名が講師を務める。今春入学した1年生27名のうち9名が受講しているという。塾の名称「キセキノ」は、高い目標を達成する“奇跡”、先人の知恵に学ぶ“軌跡”、個性を磨く“輝石”を掛けた。

塾の運営費にはクラウドファンディングで全国から寄付された約2,100万円も活用。財政破綻によりかえって地名度が高まり、閉山以来、各地に散った10万人の元市民も夕張を陰ながら支援している。これも夕張の貴重な“資源”だ。

「家と学校以外の高校生の居場所になれば。親や先生にも言えないことを公設塾でなら言える。そんな場になってほしい」と佐藤さんは期待している。

総合戦略の「地域資源を活用した働く場づくり」にあたるユニークな取り組みとしては、総務省の地域経済循環創造事業交付金を受けてはじまった「ズリ山活用による夕張再生エネルギー創出事業」がある。

竣工式のようす
2015年8月5日にはズリ山水洗炭事業の竣工式が行われた(画像提供:夕張市)

夕張には、不純物を含む商品にならない石炭を山間に堆積させた「ズリ山」が今でも残っており、崩落による災害の要因になっていた。このマイナス要因をプラスの資産に転換できないかと検討を重ね、「ズリ山」をエネルギー資源に利用する発想が生まれた。石炭分を抽出して火力調整用の化石燃料として出荷する。年間9万トンの処理能力で300年間の埋蔵量があるという。

地元の建設会社のプラントが2015年から稼働し10名の雇用を生んでいるだけでなく、採取によってズリ山の勾配が緩和され、崩落しにくくなった。収益と減災の一石二鳥で、まさに「知恵を働かせてゴミからカネを生むしくみ」(佐藤さん)だ。

人と人とを持続的につなぐのは互いに学び合うこと

「職業を選べ、結婚し、子どもを育てられる──あらゆる障害者が人として当たり前の人生を送れる場所をつくりたい」

札幌でサッカークラブを運営するうちに障害児の運動教室も主宰するようになった正木英之さんは、そんなビジョンを描き、拠点として夕張市沼ノ沢地区にある中学校の廃校に目をつけた。

夕張は高校生まで過ごした正木さんの故郷でもある。だが「実績がなく、カネのないNPO法人には貸せない」と、最初の提案は市役所に却下された。

側面支援したのが佐藤さんだ。「地区の防災拠点に指定されている廃校を誰が機能させるのですか」と再考を市に進言し、一計を案じた。

さらに道路の拡幅工事で移転先を探していた郵便局を廃校に誘致して、コミュニティーの中核にしたいとの佐藤さんの提案に、日本郵便北海道支社が共感し、廃校に郵便局が誕生した。ここに訪問介護ヘルパーステーションも入居したことで家賃収入が見込めるようになり、正木さんの「NPO法人あ・りーさだ」は廃校を拠点に活動できることになった。

正木英之さん
NPO法人あ・りーさだ代表の正木英之さん

正木さんはこの廃校を拠点に、修学旅行の中学生を受け入れ、障害者スポーツの体験教室を実施している。地元の農家と連携し、人手不足の農作業に障害者の手を借りる新たな就労モデル「農福連携」プロジェクトにも取り組みはじめた。「地域の人たちと交流しつつ、農業から障害者スポーツインストラクターまで、いくつかの職業選択プロジェクトを立ち上げ、ゆくゆくは就労準備を提供できる障害児専門学校を開設したい」というのが、正木さんの10年計画における目標だ。

これらは廃校を拠点にした活動のコンテンツだが、外部に発信するためには地域コミュニティーとしてのコンセプトが必要。そう考えた佐藤さんと正木さんは「学交」(がっこう)というキーワードを打ち出した。「関係人口の創出」「地域外との交流による知恵の習得」という夕張市の総合戦略にも則ったものだ。

「人と人とを持続的につなぐのは、モノやカネではなく、互いに学び合うこと。そのためには地域内外の交流が欠かせません。そこから困り事を解決する知恵も生まれ、かたちにできる。そんな願いを込めて“学交”としました」(佐藤さん)

佐藤さんと正木さん
佐藤さんと正木さんはたびたび「あ・りーさだ」の拠点となる沼ノ沢地区の廃校に集い、夕張の未来を語らい合っている

地域での集会は町内会の役員会くらいしかない。廃校を拠点にした新たなコミュニティー「学交」に誰でも集まり、この集落で生きていくための大事なことを確認し合おう──。そんな“ゆるい”交わりでもいい、と佐藤さんは考えている。

「みんながニコニコ、ワイワイ語り合って、ちょっとお節介なこともお互いにして……夕張って破綻したまちなのに意外と元気だったよ。そんなふうに外から見えるようになれればいいな、と。コミュニティーの根源ってそういうことだと思うんですよね」(佐藤さん)

何も夕張には悲観的な未来があるだけではない。夕張では「一山一家」を旗印とした総合戦略によって、次なるコミュニティーが再生され、そこに人を呼び込むことで着実に新たな歩みをはじめている。後編では「学交」に集うメロン農家や、夕張に移住したばかりのシェアハウス運営者に話を聞き、地域住民とよそ者の両視点から再生へのヒントを探る。

ギークな若者が創り出す!? これからの夕張コミュニティーの可能性 ──北海道夕張市・よそ者と地域が交わり課題に挑む(後編)へ続く


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