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ギークな若者が創り出す!? これからの夕張コミュニティーの可能性 ──北海道夕張市・よそ者と地域が交わり課題に挑む(後編)

2018年07月10日



ギークな若者が創り出す!? これからの夕張コミュニティーの可能性 ──北海道夕張市・よそ者と地域が交わり課題に挑む(後編) | あしたのコミュニティーラボ
廃校を拠点に、地域内外の人たちが交じり学び合うことで課題解決の道筋を探る──民間から立ち上がった「学交」プロジェクトは、障害者福祉を起点にしたコミュニティーづくりに挑もうとしている。その一方、IT好きの「ギーク」が集まるシェアハウスが夕張に誕生、新たな「よそ者」たちの息吹も生まれつつある。後編では、夕張に吹きはじめた双方向からの「新しい風」に着目したい。

「一山一家」が導く夕張の未来 ──北海道夕張市・よそ者と地域が交わり課題に挑む(前編)

障害者スポーツ体験教室と「農福連携」プロジェクト

「こんど一緒に酒のむべ?」

夕張市でメロン農家を営む太田義也さんは、後輩を介して飲み会に誘われたとき、正直「またか……」とうんざりした。世に知られた財政破綻後にやって来る「甘い汁目当ての、引っ掻き回して去るだけの人」を何人も見ていたからだ。

だが、会ってみると「この人は違うかも」と思い直した。それが、沼ノ沢地区の廃校で障害者支援に取り組む「NPO法人あ・りーさだ」代表、正木英之さんとの出会いだった。札幌でサッカークラブと障害児の運動教室を運営する正木さんは2012年から、高校時代まで過ごした郷里の夕張に軸足を移して活動している。

太田義也さん
夕張市でメロン農家を営む太田義也さん

「障害者が集まって軽い運動会をするから手伝ってくれないか」。そう正木さんに誘われるまま、太田さんが廃校となったかつての母校に行くと、そこは修学旅行の中学生を対象にした障害者スポーツ体験教室だった。

中学生が素直に障害者スポーツ用の車椅子に乗って一緒に楽しんでいるのを見て感心し、何回か体験教室を手伝ううち「せっかく同じ時間を楽しく過ごすのなら、基礎の基礎くらいの知識は仕入れておきたい」と、初級障害者スポーツ指導員の資格を取った。

あ・りーさだが取り組もうとしている「農福連携」(前編参照)には農家として、より密接に関わる。農業に障害者の手を借りることで就労支援するプロジェクトだ。

「夕張市のメロン農家は110軒ですが、10年後、20年後を考えると働き手の減少は農家にとって避けて通れない問題。農福連携には大きな期待を持っています。1年目のテストケースとして、ミニトマト、ハクサイ、ダイコンなどの植え付けと草取りをしてもらいます。農家は働き手を確保でき、障害者の方々は現金収入を得られる。僕らがメロンの収穫で忙しいのは8月中旬まで。その時期を過ぎれば体が空くので、いろいろお手伝いするつもりです」と太田さんは話している。

太田さんの父親(左)
夕張市農業協同組合に加盟する「太田農場」。太田さんの父親(左)のほか、最盛期には家族総出で出荷作業にあたるという

誰と出会ってもふだんの挨拶ができるコミュニティー

2027年に夕張市が借金を返し終わった後、どんなまちになっていたいか。そう太田さんに聞くと、財政破綻直後に農家同士でよく笑って話していたことを教えてくれた。「夕張住みづらいから、出てけってか? でも農家はどうやって出てくのよ、畑を背負って(笑)」。

破綻して何が変わったか。劇的に貧乏になったわけでもないし、何も変わっていないと太田さんは思う。これまでも、これからも、土地に根ざして、悲観も楽観もせず、仲間とともに楽しく生きていくのだ。

正木さんも「何を豊かで幸せと感じるか、そこが問題」と同感する。

「このあいだみんなで話していたら、豊かさと幸福の始まりは、おはよう・こんにちは・さよならが言い合えるかどうか。そこへ行き着きました。巡回教室で年間1,500人くらいの子どもたちに会っています。3年で4,500人ですよ。推計によると夕張市の人口は2040年に5,000人を切っているかもしれない。てことは、みんな1回は顔見知りになれる場を増やせばいい。やはりコミュニティーが大切なんだと思います」(正木さん)

正木英之さん
NPO法人あ・りーさだ代表の正木英之さん。この日は農福連携で進行中のプロジェクトのため、地元農家から借り受けた農地で耕作作業に精を出した

コミュニティーがしっかりしていて、仕事が終われば誰かと何でも話し合える場があること。そうした環境があってはじめて、夕張で活動したい“よそ者”の受け入れ態勢も整い、まちが活気づくにちがいない。正木さんはそう考える。

夕張市産業振興課の佐藤学さんも、昨年末頃からコミュニティー創出活動として「学交」のプロジェクト化を目指している。今年1月にはその足がかりとして、民間企業を巻き込んで「学交」の未来を考えるワークショップを開催した。太田さんもその2日間のワークショップに参加し、「とてもワクワクした」と振り返る。

「“もやもや”や“こんなことをやりたい”をその場に出して、文字や絵にしながら話し合うことで、それまでぼんやり思っていたことに色が付き、輪郭が出はじめた。みんなが集まれば、それがたった2日間でもできる。これをきっかけに、思いがまとまりはじめ、今夏に学交のイベント“学交祭”をやろう、ということになったのも大きな収穫でした」(太田さん)

地元の人も“よそ者”も交じって学び合い、知恵を出して、地域の未来を明るく照らし出す。廃校を拠点に、そんな場づくりの挑戦がはじまろうとしている──。

ハウスのようす
取材を行ったのは5月中旬。この数週間後、夕張メロンの初出荷がはじまった

「ギークハウス@夕張」を足がかりに魅力発信

佐藤さんらによる「学交」プロジェクトの一方で、何かしらの活動を起こそうとする新たな“よそ者”もいる。

とりわけ、はじまったばかりの「学交」プロジェクトに課題があるとすれば、新規参入者を増やすための“情報発信”ではないだろうか。ゆるい交わりを醸し出す新たな夕張コミュニティーに、課題先進地としての夕張に関心を抱く新規プレイヤーを招くことができたならば……。その役割を担うかもしれない1人が「ギークハウス@夕張」を運営する徳谷康憲さんだ。

「ギークハウス」と呼ばれるシェアハウスは全国に35カ所ある。ネットやIT、プログラミングが好きな人たちが集まるコンセプト型シェアハウスだ。埼玉県所沢市でギークハウス所沢を運営していた徳谷さんがそこを引き払い、この6月から夕張市本町に移住。現在は「ギークハウス@夕張」の運営に専念している。

徳谷康憲さん
「ギークハウス@夕張」を運営する徳谷康憲さん。今年6月に夕張へ移住したばかりだ

徳谷さんはかつて警備会社に勤めていたが、趣味の株式投資で利益を上げ、何かおもしろいことをしたいと会社を辞め、ギークハウスの運営をはじめた。夕張との出会いはその直後の2015年、札幌で開催されたプログラミング言語「Python」のカンファレンスイベントに参加した帰りにギークハウスの仲間とはじめて訪れたとき。「せっかく札幌に来たから、クルマで1時間半で行ける財政破綻したまちを見学しよう」という軽いノリだった。

「ギーク勢は旅をすると市役所に突入して“空き家ありませんか”と尋ねるのがお約束みたいになっているんです」。すると運良く、取り壊す予定だった物件を紹介され、「ギークハウス@夕張」が立ち上がることになった。

ギークハウス
2015年から空き家を活用した「ギークハウス@夕張」の運営開始。以降はここを拠点に、フィールドワークや勉強会開催、入居者募集を行ってきた(画像提供:徳谷康憲さん)

管理人を務めた徳谷さんは、何度か夕張に通ううち「地元の人にとっては当たり前のことだけれど、よそから来た人にはお宝」な魅力をいくつも発見した。近くの川で簡単に大きなニジマスが釣れる。満天の星空がきれい。カヌーやラフティング、スキーや登山が楽しめる。通信回線が早い。春の花粉がない。夏は涼しい。そしてもちろん、夕張メロンがとびきりおいしい……。

「ギークハウス@夕張」は6室。すでに1名が入居している。徳谷さんはここを足がかりに夕張の魅力を率先して情報発信し、まちを活気づけたいと考える。「夕張には宿泊施設が足りません。スキーでもガッツリ滑りたい人は宿泊費の高いホテルより安い民泊施設を利用するでしょう。民泊運営を実践してノウハウを確立し、周辺に広めていければ。これからは個人が稼ぐ時代なので、タブレット教室などを開いてITスキルを伝授することもやってみたいですね」と意欲を燃やしている。

“夕張”という圧倒的な知名度の高さ

東京都新宿区で3軒のギークハウスを運営するウェブプログラマーの北村直樹さんは「東京から夕張に人を送り込む」ことで、徳谷さんを後方支援したいと考えている。

「LCCを使えば安く行けるし、札幌からも近い。東京での仕事に疲れて地方のギークハウスに移住するパターンもありますし。なによりも夕張が有利なのは知名度が抜群に高いこと。SNSでも拡散しやすい。夕張に惹きつけられる人は多いはずです」(北村さん)

北村直樹さん
ウェブプログラマーの北村直樹さんは、みずから運営する「ギークハウス新宿四ッ谷」で暮らしながら、徳谷さんの活動を後方支援していきたいと話す

北村さんは徳谷さんとともに2017年7月に開催された「Startup Weekend夕張」のオーガナイザーを務めた。

アイデアをかたちにする方法論を学び、スタートアップをリアルに体験するワークショップで、夕張の地域課題がテーマだった。「地方に移住したエンジニアにとっての問題は、イベントが無いこと、そしておもしろい人がどこにいるかわからないこと。Startup Weekendをやると、おもしろい人たちがおのずと吸い寄せられてくるので、仲間ができて定住も進みやすいんです」(北村さん)──。

Startup Weekend夕張
2017年7月に開催されたStartup Weekend夕張(画像提供:徳谷康憲さん)

夕張では、財政再建の先を見据え、よそ者を巻き込んで地域に新しい風を起こす気運が醸成されつつある。その一方で「ギークハウス@夕張」のように、「よそ者ならでは」の視点で夕張の魅力を掘り起こし、活気づけたい人たちも新たに登場してきているようだ。2つの潮流がマッチングしたとき──。きっと地域の未来が見えてくるだろう。

この集落でこれからも暮らしていくためには、どうすればよいのだろうか。住民もよそ者も一緒になって学びあい、交流しよう。そのなかで、集落の困りゴトを解決する知恵を見つけ、かたち(事業)にしていこう。そんな思いでスタートした「学交プロジェクト」では、今年8月3〜7日まで夕張沼ノ沢地区の廃校を舞台に「学交祭」を開催予定です。詳細は学交プロジェクト「学交祭」イベントページをご覧ください。

「一山一家」が導く夕張の未来 ──北海道夕張市・よそ者と地域が交わり課題に挑む(前編)


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