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古きを生かし、新しきを創る精神 ──ぶれない哲学から生まれる普遍的な価値とは(後編)

2018年07月20日



古きを生かし、新しきを創る精神 ──ぶれない哲学から生まれる普遍的な価値とは(後編) | あしたのコミュニティーラボ
世界遺産の石見銀山を抱える島根県大田市大森町。人口わずか400人の山間の静かな集落に、全国のユーザーに強く支持される2つのメーカーがある。どちらにも共通するのは確固とした企業理念。どのような哲学が企業に普遍的な価値をもたらし、小規模で革新的なものづくりを可能にしているのか。後編では、古きよき知恵を今に生かしたライフスタイルを提案する「石見銀山生活文化研究所」の”復古創新”の理念と、そこから生まれる大森町の風土を生かしたものづくりについて伺った。

患者さんのために「考え続ける」 ──ぶれない哲学から生まれる普遍的な価値とは(前編)

古民家が語りかける「根のある暮らし」

クラウドファンディングで支援を受けた茅葺き屋根の葺き替えが2017年7月、完了した。島根県大田市大森町にある「株式会社石見銀山生活文化研究所」の社屋の一部で「鄙舎」(ひなや)と呼ばれる、創業者の松場大吉・登美夫妻が1997年、広島県世羅町から移築した、260年の歴史を刻む古民家だ。

株式会社石見銀山生活文化研究所の社屋群。「鄙舎」は右側の萱葺き屋根の古民家
株式会社石見銀山生活文化研究所の社屋群。「鄙舎」は右側の茅葺き屋根の古民家

「社員食堂、講演会やコンサート会場、学生の合宿所などとして使っています」と、営業マーケティング部で「三浦編集長」という名の同社広報誌編集長も務める三浦類さん。

三浦類さん
株式会社石見銀山生活文化研究所 営業マーケティング部 販売促進課・広報誌『三浦編集長』編集長の三浦類さん

松場登美が子育ての合間につくったパッチワークのエプロンやキッチンウェアなどの雑貨を夫の大吉が行商して売り歩く──そんなやり方からスタートし、1988年、過疎のさなかにあった大森町の元商家を再生しはじめての店舗を開いた。「こんなところで店を出したって……」。周囲の人はいぶかるが、夫婦は「この豊かな田舎の風景に価値が見出される時代がきっとくる」と信じて疑わなかった。

日本の暮らしに根ざした文化を未来に伝えたい。夫婦の想いは1994年、「群言堂」ブランドに結実した。綿、麻などの天然素材を使い、今も各地に残る織物産地の職人技を生かした、日々の暮らしになじむ優しい肌ざわりの服と雑貨。

「群言堂」の服は全国各地の職人や工場とともに生地からオリジナルで企画し、縫製まで国内で完結する
「群言堂」の服は全国各地の職人や工場とともに生地からオリジナルで企画し、縫製まで国内で完結する

試行錯誤しながら出店と撤退を繰り返すうち、群言堂のものづくりはしだいに女性客の心をつかみ、現在では全国の百貨店を中心に31店舗を展開している。年商は現在22億円にのぼる。

今もふだん使いしている茅葺きの鄙舎は、まさにこの会社が伝えたい価値のシンボル。

鄙舎の入り口には社名が掲げられている
鄙舎の入り口には社名が掲げられている

田んぼの畦道を通り、丸太橋と小川を渡って辿り着くストロークからして生半可な構えでないことがわかる。鄙舎を抜けたところが本社事務所だ。「事務所の屋根は隣町の登り窯で焼かれた古い石州瓦です」と三浦さん。

なかに入ると一転してモダンなオフィススペース。デザイナーやパタンナーが集って立ち働く。50数名のスタッフがここから全国に「根のある暮らし」の価値を発信している。

天井が高く、大きな空間が広がるオフィススペース
天井が高く、大きな空間が広がるオフィススペース

古きよき知恵を今に生かすものづくり

2010年に入社した松場忠さんは、創業者の松場夫妻の三女、奈緒子さんの夫。東京のメーカーで靴職人をしていたが、奈緒子さんと出会ったことがきっかけで群言堂を知った。

東京・高尾駅にある古い木造駅舎に入った直営店「Ichigendo」を任され、西荻窪駅前の古民家カフェ「Re:gendo」を立ち上げたのち、2012年から大森町に移住。

現在は営業マーケティング部の部長として「お客さまにどうすれば商品の魅力が伝わり、店舗に足を運んでいただけるか、購入のきっかけになるか」に腐心している。

松場忠さん
株式会社石見銀山生活文化研究所 営業マーケティング部 部長の松場忠さん

「群言堂」は中国語で、松場さんの言葉を借りれば「みんなでわいわい話し合いながらよい流れに持って行く場」という意味。ものづくりの望ましいあり方を表したネーミングだ(ちなみに対義語が「一言堂」で意味は「鶴の一声で物事を決める」)。

群言堂のブランド系列には、ミセス向けの「登美」をはじめとして、若年世代を意識した「根々」、石見銀山で発見された酵母菌“梅花酵母”を生かしたコスメ「MeDu(めづ)」がある。

ターゲット層の違うさまざまなブランドがある
ターゲット層の違うさまざまなブランドがある

2014年からスタートした新ブランドが、スタッフみずから近所の里山で集めた植物を原料にして色とりどりに織り成した「Gungendo Laboratory」の「里山パレット」シリーズ。染色に使う植物は今や100種を超すという。

いずれ、まちの人たちに植物集めの仕事を頼める規模まで広げられるかどうか、都市に拠点をもつアパレルでは絶対にできない、土地の資源を生かした服づくりへの挑戦が続く。

群言堂はものを通じて「根のある暮らしを楽しむライフスタイル」を提案している。それを支える理念は「復古創新」。とはいえ「この言葉ありきではじまったわけではない」と松場さんは話す。

「この場所で信じてやり続けてきたことをいちばん端的に表した造語です。古きよき知恵を生かしながら今も楽しめるものづくり。そもそも何が大切なのか、そのルーツをしっかりおさえた上で、流行にとらわれず、しかし今の社会になじむようイノベーションを起こす。着心地のよさは、そうした等身大の物差しで見たものづくりから生まれると思うのです」

人生を切り売りしない働き方のできる会社

顧客との接点は全国の店頭に立つスタッフが担う。松場さんによれば「お客さまとの関係性をいかに築けるか」に重きを置いている。

「コーディネートの相談はもちろん、ミセス層のお客さまが多いので、たとえば介護の悩みなども親身に伺ったり。お客さまが亡くなられたときにご家族からお葬式に呼ばれたスタッフもいます。そこまでの関係性を築いていたわけで、その類の話は少なくありません」。

「お客さまとの関係性づくりが何よりも大切」と語る松場さん
「お客さまとの関係性づくりが何よりも大切」と語る松場さん

もうひとつ、この会社らしいエピソードを紹介してくれた。アパレルやファッションの業界で求人を出すと、全身そこのブランドで固めた志望者がくるのが普通なのに、「群言堂の服は着たことがないけれどこの会社で働きたい」と入社する若者が増えているという。

つくっているものを通して見える文化や企業風土、そして「暮らしの延長線上にあり、人生を切り売りするのではない働き方」(松場さん)に惹かれるのかもしれない。

そうやって理念に共感し入社した若者が活躍できる土台を固めるために、松場さんは他の部長らとともに2017年に改めて社員全員で共有できるクレドをつくった。茅が漉き込まれた和紙を布貼りで束ねた表紙に大書された「志」の漢字はよく見ると冠の部分が「士」ではなく「土」。

会社の理念を社員全員で共有するためにつくられた「クレド」
会社の理念を社員全員で共有するためにつくられた「クレド」

「根のある暮らし」をあらわしている。手づくりの小冊子のたたずまい自体が「石見銀山生活文化研究所とはどんな会社か」を物語っている。

「クレドには私たちの求める人材像も書きました。この先、AIが普及してきたら、ものづくりのインフラを劇的に効率化できる一方、感性に頼るしかない店頭での対人関係づくりなどは逆にAIで代替できない贅沢な仕事になるでしょう。ものすごくいい時代になってきたと思う」と松場さんは未来に眼差しを向ける。

クレドには石見銀山生活文化研究所の哲学が詰まっている
クレドには石見銀山生活文化研究所の哲学が詰まっている

群言堂の服は全国の織物産地に支えられている。松場さんは今後の課題を「適切に発注できる最低限の数量を確保しなければ高い品質も保てません。そのために適切な店舗数の見極め、マーケティング活動、オンラインストアでの収益の改善など多岐にわたる取り組みが必要」と語る。

同時に「企業が稼いでまちを維持する」大切さについても触れた。創業者夫妻は古民家の再生事業にも熱心だ。そういえば、前編で紹介した中村ブレイスの中村俊郎会長も空き家の改修に私財を投じている。

存続の危機にあった大森町の保育園には今18人が通い、中村ブレイスと石見銀山生活文化研究所の社員の子どもたちも多い。

「根々」ブランドでは大森町の保育園児と一緒にデザインした服も作っている
「根々」ブランドでは大森町の保育園児と一緒にデザインした服も作っている

400人の人口のまちにこの1年で10人の赤ちゃんが生まれ、待機児童が出るかもしれない勢いなのだという。

松場さんが指摘するように、大森町は「石見銀山で栄えた20万人都市の文化を引き継ぎながら田舎の環境にいる中庸のポテンシャル」をもっているのかもしれない。

それがこのまちの魅力であり、確固たる企業理念のもとに集まる人材によって果敢な挑戦ができる企業を生み出した風土でもあるのだろう。

患者さんのために「考え続ける」 ──ぶれない哲学から生まれる普遍的な価値とは(前編)


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