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野菜が取り持つ“地域の縁”──技術とコミュニティーで進化する地域農業の今(前編)

2018年08月17日



野菜が取り持つ“地域の縁”──技術とコミュニティーで進化する地域農業の今(前編) | あしたのコミュニティーラボ
所得の減少や後継者不足の課題を解決するために効率的な経営や高付加価値化が求められてきた日本の農業。近年では、これらに応える形でICTを活用したスマートアグリなどの取り組みも増えてきている。東日本大震災からの復興をバネに、今までにない新たな挑戦で農業の未来を切り拓き、「農」を核としたコミュニティーの再生・創生をめざす試みを宮城県石巻市、仙台市から探ってみたい。前後編でお届けする。
前編ではオランダ式ガラスハウスでトマトとパプリカを栽培する石巻市の「デ・リーフデ北上」、仙台市内で地域コミュニティーを形成しながら地元の野菜を販売する「産直広場ぐるぐる」の取り組みを追いかけた。

野菜が地域に根付づかせる、新たな可能性──技術とコミュニティーで進化する地域農業の今(後編)

オランダ型の次世代施設園芸で“計算できる農業”

石巻市の北上川河口近くに大規模な栽培施設「デ・リーフデ北上」がある。よく見られるようなビニールハウスではなく、日光を効率よく取り入れられるガラスハウスで、トマト(1.1ヘクタール)とパプリカ(1.3ヘクタール)を育てている。ICTを活用した環境制御で自動的に生育管理できるオランダ式の施設園芸だ。

デ・リーフデ北上のトマト畑
デ・リーフデ北上のトマト畑。明るいガラスハウスのなかにトマトが整然と並んでいる

実は現在、日本で消費されるパプリカの大半は韓国産で、国産は1割にすぎない。そのうちの6割を占める宮城県は日本一のパプリカ生産県だったが、東日本大震災によって生産量は減少。県産トマトも同じく減少した。津波で壊滅的な被害を受けた石巻の釜谷崎地区で、盛んだったトマトとパプリカの生産を復活させ、農業復興と雇用促進をめざそうと2016年に稼働したのが、デ・リーフデ北上だ。

代表取締役社長の鈴木嘉悦郎さんは震災前、茅葺屋根などに使う葦の生産加工を生業にしていたが、津波で工場、家屋、田畑がすべて流出した。震災後、かねてから葦の生産で交流のあったオランダの視察団が被災地を見舞いに訪れ、そのなかに施設園芸の関係者もいたことが、デ・リーフデ北上のスタートとなった。

デ・リーフデ北上 代表の鈴木さん
デ・リーフデ北上 代表の鈴木さん

鈴木さんはそのときはじめて、小国オランダが大国アメリカに次ぐ世界第2位の農産物輸出国であることを知る。「中身を聞いてみると、面積あたりの収量(収穫量)が日本の2~3倍。ガラスハウスで囲い、気候条件をコンピュータ制御しながら、年間を通じて栽培し、“計算できる農業”を展開しています。そこで地域の人たちとも話し合い、ぜひともオランダ型の農業を導入しよう、と。震災からの復興のみならず、新しいテクノロジーを活用した施設園芸への挑戦にもなるわけです」

国の「次世代施設園芸導入加速化支援事業」に採択され、その補助金をハウス建設費に充てた。ガラスハウス着工前に株式会社デ・リーフデ北上(社名は江戸時代に日本へ漂着した初のオランダ船名にちなみ「慈愛」の意)を設立し、東京農業大学と地元の大学の卒業予定者を3名雇用。他の農場やパプリカ栽培の先進地、韓国で研修するなど社員の事前養成に1年半かけ準備を整えた。農場長には東京農大に留学し16年のキャリアがあるバングラデシュ人を招聘した。

栽培だけでなく経営もできる農業者の育成を

ガラスハウスでは、あらゆる生育環境をICTにより最適な状態に維持している。温度や湿度、天窓やスクリーン制御による日射量、水や肥料などの給液、二酸化炭素濃度。これらを自動管理する「長期多段型養液栽培」によって長期間の出荷が可能になり、収量が上がるのだ。木質バイオマスとLPGのボイラー、ガスヒートポンプのハイブリッド暖房システムを導入することで化石燃料の3割削減を目指している。

トマトの品種は、糖度と酸味のバランスが良く、旨味のもととなるグルタミン酸豊富な「富丸ムーチョ」。大ぶりのパプリカは赤、黄、橙の3色。鈴木さんによれば「宮城県産のパプリカはこれまで年間収量16トンの壁を超えられなかったのですが、ここでは1年目で25トン収穫しました」。

「愛・ある・トマト。」や「愛・ある・パプリカ。」と名付けられた野菜たち
「愛・ある・トマト。」や「愛・ある・パプリカ。」と名付けられた野菜たちは独自の流通網にのり、全国に届く

デ・リーフデ北上では、卸売会社などとコンソーシアムを構成しており、その構成員である卸売会社を通じて全国へ販売。生産、調製、出荷までワンストップで実施。社員7名、パートタイマー40名の地元雇用を生んでいる。

売上的にもさらに伸ばす余地があるというデ・リーフデ北上。現在取り組むのが「通年出荷」だ。そのため第2農場を隣地につくる予定と鈴木さんは意気込む。

作業場
作業場も暖かく、取材当日はあいにくの雨だったが、とにかく明るい印象だった

「課題は人材育成です。今は農場長が社員に指導して日々、環境制御システムの設定を変えています。輸出元であるオランダで基本設定はされていますが、この地域の気候条件に合わせるため何千回と微調整が必要です。それをマスターした段階で第2農場を稼働できる。また、栽培管理だけでなく、労務・経営管理もできる人材を育てなければなりません。新しい施設園芸の“計算できる農業”で起業をめざす若い人たちが後に続いてほしい」

日本の農業はさまざまに制度的な課題を抱えているが、突き詰めると「挑戦心の問題」と鈴木さんは話す。「同じように狭い国土なのにオランダが農業先進国になったのは、まさに挑戦心のたまもの」。オランダ語を社名にしたデ・リーフデは、ノウハウに加えチャレンジ精神も移入して農業の未来を見据えている。

「お茶っこしてかない?」野菜が取り持つ縁

仙台市若林区の住宅街の一画。「産直広場ぐるぐる」は地元産の野菜の直売所だが、毎週水曜日と土曜日には無料の「お茶っこサロン」として、お茶や漬物、野菜スープなどを囲んで近隣の高齢者が集まる。野菜を買いに来たついでに、のんびりとおしゃべりを楽しめる、地域のコミュニティースペースになっている。

東日本大震災後のことを、一般社団法人産直広場ぐるぐるの森暁美さんは振り返る。

森暁美さん
一般社団法人産直広場ぐるぐるの理事を務める森暁美さん

「被災して心に深い傷を負い、人と会っていろいろ聞かれたり喋りたくない、という人もいました。でも、ここにお野菜を買いに来ると、知らないお婆さんや私たちスタッフに“こんにちは”“ちょっとお茶飲んでったら?”と声をかけられて、“うーん、そうねえ……”とだんだん打ち解けていくんです。帰りたい時にはサッと帰ればいいし。“こんなに大きい声で笑ったのは久しぶり”という日もあれば、こらえきれなかった思いが溢れ出て、みんなで涙する日もありました。笑うことも大事、泣くことも大事。私たちも活動しながら教えられました」

同理事の山田義之さんも「食べものの力って偉大。たとえば赤い茎をしたルバーブという西洋野菜も“ぐるぐる”では扱っているのですが、どうやって食べるのか知りたくなるんですね。試食に出したりすると“そんなに簡単につくれるの?”“おいしいわね”なんて会話が生まれ、心がほぐれてくる」と話す。

山田義之さん
森さんとともに一般社団法人産直広場ぐるぐるの理事を務める山田義之さん

仮設住宅から復興公営住宅に移ると、また新たなコミュニティーを築かなければいけない。そこでも産直広場ぐるぐるは「野菜が取り持つ縁」を結んでいる。産直野菜の普及と同時に、知らない者どうしでも話題にしやすい野菜を軸にして人と人とをつなげること。それが産直広場ぐるぐるの使命だ。

高齢者の元気な生活サイクルを支援したい

産直広場ぐるぐるは、「NPO法人冒険あそび場 せんだい・みやぎネットワーク」の一事業としてはじまった。同NPO法人は、若林区土井浜の海岸公園冒険広場で子どもたちを対象としたプレーパークの運営をするかたわら、若林区の依頼で産直野菜の販売もしていた。

しかし、東日本大震災の津波によって海岸公園冒険広場は壊滅。その後、現在の場所に拠点を移し、被災地復興のため厚生労働省の「絆」再生事業の採択を受け、被災した農家支援の目的も合わせ、買物困難地域や仮設住宅への産直野菜の移動販売などの活動をはじめた。

2014年、いったん活動停止を考えたが、利用者の「やめないで」の声に励まされ、一般社団法人として再スタートを切った。

復興支援の助成金はいつまでも続かない。また、焦点は被災地支援から超高齢化社会に移る。いかに行政の隙間を埋め、高齢者の元気な生活を支援できるか。産直広場ぐるぐるの今後の課題だ。

「歩いて買物をし、お喋りをして、家に帰ったら、買った野菜で料理をつくる。1人暮らしでも自分でつくって食べれば心も体も元気になれます。だからまた、ぐるぐるに来てくれる。そんなサイクルを大切にしたい」と森さんは考えている。

「料理は認知症予防にすごく良いと思うんです。どんなものが食べたいか。そのために何を買うか。どうやってつくるか。食べておいしかったかどうか。身近なところで企画・運営・結果の活動になります」と山田さんも言う。

軸になるのは、やはり地元産を中心とした野菜。旬の野菜を食べる昔ながらの知恵を2人が教えてくれた。「キュウリにしてもレタスにしても体を冷やす作用があります。だから暑いときに食べる。その時季に体が必要とするものを自然に摂取できるんですね」(山田さん)。

取材当日販売していた野菜たち
取材当日販売していた野菜たち。そのほかにも、ルバーブなど珍しい野菜が販売されていた

「サラダといったらレタスにトマトにキュウリ。でも、わざわざ寒い冬にそれらを食べて体を冷やすことはないんです。生野菜なら、たとえば体を温める作用がある白菜をサラダにするとか」(森さん)。農家に直接野菜を仕入れに行き、高齢者からもそのフィードバックをもらう。野菜が取り持つ縁から得られる、話題は尽きない。

ちなみに、柔らかで甘みが強い「仙台白菜」は戦前に一世を風靡した仙台の伝統野菜。野菜に関する“なるほど”話は奥が深い。見知らぬ人たちを結びつける身近なコミュニケーションツールとしても優れていることがわかった。

後編では、産直広場ぐるぐるに野菜を提供している農家の大内文浩さんと、ぐるぐると大内さんも実証実験に協力した市民農家応援サービス「じもベジ(じもvege)」から拡大する市民農家市場を含めた生産の現場での取り組みを紹介する。

野菜が地域に根付づかせる、新たな可能性──技術とコミュニティーで進化する地域農業の今(後編)へ続く


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