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野菜が地域に根付づかせる、新たな可能性──技術とコミュニティーで進化する地域農業の今(後編)

2018年08月17日



野菜が地域に根付づかせる、新たな可能性──技術とコミュニティーで進化する地域農業の今(後編) | あしたのコミュニティーラボ
仙台市の「産直広場ぐるぐる」に野菜を提供する大内文浩さんは、東日本大震災の津波で壊滅した田畑を復活させ、多品種少量生産の農業を展開している。産直広場ぐるぐるを通じて大内さんも実証実験に協力したサービス「じもベジ(じもvege)」は、台頭いちじるしい「市民農家」のコミュニティーを基盤にシニア層の生きがいづくりと地域活性をめざすプロジェクトだ。後編では大内さんに「プロ農家」としての仕事を聞き、じもベジがともに歩もうと考えるセミプロ「市民農家」に新しい農業の可能性を探る。

野菜が取り持つ“地域の縁”──技術とコミュニティーで進化する地域農業の今(前編)

津波で塩害を被った畑でコマツナが育った

仙台市若林区二木の大内文浩さんの自宅と田畑は、海岸から2キロ足らずのところにある。東日本大震災の当日、津波警報が出ると、地元の消防団員である大内さんは近所を一軒一軒まわり、住民に学校への避難を促した。そうこうしているうちに信じられない大津波が襲い、自宅の2階へ退避。「ここは住宅地と田んぼだけなので自家用車が十何台と流れついてきました」と大内さんは振り返る。

大内文浩さん
若林区で農家を営む大内文浩さん。後ろにある青い看板の位置まで津波がやってきたという

水は翌朝に引いたが田畑は全滅。大内さんは1カ月あまり消防署に寝泊まりしてがれきの撤去と捜索作業に従事した。

塩害で田畑は10年ダメだろう──。震災直後は、農協に行ってもそんな悲観論が幅を利かせていた。だが大内さんは疑った。「だって九州などでは台風でしょっちゅう塩害になるわけですよ。いろいろ文献にあたってみたら、回復はそんなに難しくないとわかりました」。

津波が襲った2カ月後にはもうがれきの合間から雑草が青々と繁ってきた。「これなら野菜もつくれるのでは」。そう思った大内さんは、自宅の後片付けもそこそこに、畑を先に復旧しようと、7月には種をまいた。

土壌の塩分を吸収するというアブラナ科のコマツナを植えてみた。「ちゃんと育ちました。食べたらしょっぱいんです。確かに塩分を吸ってるな、と」。つくれる野菜を手当たり次第つくってみたら、ほとんど育った。震災の年の秋から、もう野菜を買わずにすんだという。

大内さんの畑
大内さんの畑には、青々とした農作物が所狭しと並んでいた

田んぼも同様だった。「データによると700ミリの水を入れれば田んぼの除塩ができると書いてありました。仙台の年間降水量は1,200ミリ。雨が降るたびに貯めて流しての作業を繰り返して、震災の翌年に稲を植えたら、すくすく育ちました。塩は水に溶けるので流れる。田んぼよりも畑の除塩のほうが大変ですね。ナトリウムが残ってしまい、土が粘土質になり排水が悪くなる。だからナトリウムに近いカルシウムを入れて置換するんです」と大内さんは説明してくれた。

海水には天然のミネラルなど微量要素(編集部注:ごく微量であるが、植物の生育に必要な栄養素のこと)が豊富。除塩できれば、かえって田んぼの栄養になるかもしれない。現に、震災の翌年に実った米はこれまでにないくらい豊作で、皆驚いたという。「ただし1年限りでしたけどね」と大内さんは笑う。

家族が食べて安全、安心な野菜をお客さまに

大内さんが耕すのは、6ヘクタールの田んぼと50アールの畑。畑の作物は30種類にもおよぶ。レタス、ネギ、キャベツ、ズッキーニ、サトイモ、カボチャ、ゴーヤ、キュウリ、オクラ、トマト、ナス……。多品種少量栽培で、秋口から春先までは農協と仙台卸売市場に出荷し、夏場は地産地消に熱心な学校の給食と、前編で紹介した産直広場ぐるぐるに野菜を提供している。

「いろいろ種類をつくるのは楽しいんですよ」と大内さん。

「野菜ごとに奥が深い。レタス1つだって何百種類とあり、気候と土壌に合う品種選びからはじまります。失敗も多く、試行錯誤の連続ですね。せっかくつくるんだからおいしい野菜を食べたいじゃないですか。おいしい野菜を食べられることも農家の特権だと思うので、自家用と出荷用で区別はしません。40年前に就農した時から一貫して有機肥料、低農薬で栽培しています。家族が食べて安全、安心な野菜をお客さまにも食べてもらいたい」

大内さんの畑
大内さんの畑では、さまざまな工夫とともに多品種農業が行われている

ビニールハウスの畑に黄色と青色のテープがぶら下がっていた。聞けば虫の粘着テープだとか。黄色と青色で寄って来る虫が違う。別のハウスには夜間に照明で虫を寄せる「電撃殺虫機」の装備も。少しでも農薬を低減して虫食いを防ぐ工夫だ。農薬も効き目が強力な化学薬品ではなく、木酢や竹酢、スギナ抽出液、粘性で害虫を窒息させるデンプン液など天然素材のものを使うようにしている。

子どもは娘さん2人で「後継ぎは期待していない」と大内さん。日本全国共通の課題だが、津波で被災した仙台沿岸部でも農家に後継者がいない。「それでもいくつか農業法人が立ち上がっていますから、そういうところが引っ張ってくれる」。

農業の未来に期待をかける大内さんだが「この仕事は定年ないですからね。体が動くうちはあと20年くらい大丈夫でしょうし、先々のことはあまり考えてません。考える余裕もないくらい、今が忙しいんで」と朗らかに笑った。

市民農家が「お裾分け先」を広げられるコミュニティー

大内さんのようなプロ農家とは別に、市民農園やレジャー農園を借りて趣味で畑を耕す人は少なくない。ある程度続けると習熟もする。シニア層を中心とした、そのようなセミプロ級の「市民農家」とでもいうべき人たちが増えてきている。そんな人たちがつくる野菜で余剰となってしまったものを、少額でやりとりし、野菜の「お裾分け」先を広げるコミュニティーができれば地域が活気づくのではないか(編集部注:自家消費を超えた余剰分の農産物の売買は農家でなくても法的に問題はない)。そんな試みが仙台で先陣を切りはじまっている。

プロジェクトを進める富士通デジタルフロント事業本部の森谷和明さんはその意図についてこう話す。「ただ単にネット上に出品して売り買いするだけではなく、つくり手の顔が見えて、どんなところで育てているのか、どんな想いで野菜づくりをしているのか、畑を身近に感じられるようなサービスを実現したいと考えています」

森谷和明さん
見えてきた課題を1つひとつクリアしながら、じもベジをより広めていきたいという富士通の森谷和明さん

サービス名は「じもベジ(じもvege)」。2017年2~3月にプロ農家を出品者として「地元の畑で獲れたての野菜を食べたい人に届ける」価値を検証する実証実験を行なった。

前編で紹介した「産直広場ぐるぐる」を通じて農家の大内さんも協力した。対象ユーザーは同社のグループ社員約70名と仙台市泉区高森の30名ほどの住民。同年11月には期間限定で実際に市民農家がつくった秋冬野菜をアプリ上で購入できるサービスを立ち上げ、仙台市内12,000世帯へのチラシのポスティングやSNSを利用し集客を試みた。

じもベジのWebサイト
じもベジのWebサイト(現在は、リニューアル中)

これらの実証実験で手応えを感じたという森谷さん。

「お裾分け先を広げたいという、つくり手のニーズにはマッチしました。一方、買い手にも、つくり手の顔が見える新鮮で安全な野菜を食べたい、というニーズがあることがわかりました。購入者の方に聞いたのですが、プランターでトマトを育てたことがあるとか、夏には庭でキュウリをつくっていたとか、自分なりに農ライフを楽しんでいる方が多いんです。そうした方々はリピーターになって毎週買っていただけました。1度味わうと鮮度の違いがわかるんですね」

一方で課題も明らかになった。つくり手側は農家のプロではないため、自分の野菜を売ると少なからずクレームが来るのではないかと心配する。その不安をいかに解消するか。「大内さんのようなプロ農家や、十年以上のキャリアのセミプロ市民農家が、心配事や疑問点について答えたり、特別な栽培方法を有料コンテンツとして提供できないか」などのコミュニティー内でのスキルシェアのしくみを森谷さんは考えている。

買い手側では、受け渡し場所の問題もあった。今回の実証実験では基本、畑へ取りに行くか、農園オーナーの経営する花屋を借りたものの時間限定。利便性がなかったと反省する。「たとえば花屋以外でも地域に根付いた小売店と連携して地域の受け渡し拠点を増やすなど、利便性を高める必要がある」と森谷さんは感じている。

遠方への流通には適さない野菜こそ“じもベジ”

「じもベジ」が想定するビジネスモデルは、市民農家による野菜販売を通して農ライフのコミュニティーを創出し、そこで得られるさまざまなデータを核に、農・食関連企業と共創して、新商品開発、広告・販促、スキル提供、コンサルティングなどの事業展開を想定している。

「市民農家関連の市場は、これから伸びる可能性が高い市場です。自治体も遊休農地・耕作放棄地対策や高齢者コミュニティーの活性化になればと興味を持っている」と話す。現在は事業化をめざして、より実現性の高いビジネスモデルの検討・検証を進めているところだ。

プロ農家の大内さんも「じもベジ」のようなサービスを通じて市民農家が育つのは「良いこと」と言う。「農業にはさまざまな形態があります。会社組織もあれば、私たちのような個人経営もある。それぞれ棲み分けができるので問題はありません。むしろ、頭打ちの食料自給率を上げるためにも、農業の裾野が広がるのは望ましいことです」。

産直広場ぐるぐるの山田さん
産直広場ぐるぐるの山田さん(写真中央)。野菜を通じ、大内さんをはじめ、地域の農家の方々と地域の人々を結びつけていく

スマートデバイスを入口に幅広い層への訴求を目指す「じもベジ」も、高齢者の元気な生活を対面で支援したい「産直広場ぐるぐる」も、野菜を核にして地域のコミュニティーづくりをめざす点では一致している。「地元でつくられた野菜の魅力を掘り起こし、どのように伝えるか」。産直広場ぐるぐるの理事、山田義之さんのこの指摘がカギになるだろう。

そして、これらの取り組みへのヒントを、取材の最後に大内さんが提供してくれた。かつて仙台でつくられていたトマトも伝統野菜の「仙台白菜」も、柔らかくて傷みやすい品種だったので遠方への流通には適さず、すたれていったという。ならば、むしろそれこそが今、地元でなければ味わえない“じもベジ”ではないか。仙台を起点に、その地域ならではの“じもベジ”が広がることを期待したい。

野菜が取り持つ“地域の縁”──技術とコミュニティーで進化する地域農業の今(前編)


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