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エンターテインメントツーリズムがもたらす地域活性化 ──タイトー×宮城県加美町による地方創生の可能性

2018年09月26日



エンターテインメントツーリズムがもたらす地域活性化 ──タイトー×宮城県加美町による地方創生の可能性 | あしたのコミュニティーラボ
地方活性化の取り組みで大切なのは、“その地域ならでは”の魅力を見つけ、それをベースにした取り組みを行っていくことではないだろうか。株式会社タイトーは地方創生事業にまつわる新たな事業として、同社が保有するコンテンツを生かした「エンターテインメントツーリズム」──エンターテインメントを活用した地方創生や地域活性化の取り組みを実践している。

エンターテインメントをトリガーとして、その地域ならではの魅力を発見。ゲームを攻略するように地域の素材を生かしたイベントを体験することで、地域特性をより深く知ってもらう試みだ。今回は宮城県加美町で開催された「やくらい星流フェス」を題材としながら、「エンターテインメントツーリズム」がもたらす地域活性化への効果を探っていきたい。

地域の観光資源×エンターテインメントの体験型ツーリズム

1953年に貿易会社「太東貿易」として創業した株式会社タイトーは、社会現象にもなった『スペースインベーダー』『電車でGO!』などを生み出したヒットメーカーとして知られる。しかし現在主力としているのは「アミューズメント事業」──アミューズメント施設「タイトーステーション」の直営店・フランチャイズ店の全国展開だ。同社新規ビジネス推進部長兼エンタメソリューション課長の相見将丈さんは、そんなタイトーの実状について次のように説明する。

相見将丈さん
株式会社タイトー 新規ビジネス推進部長兼エンタメソリューション課長 相見将丈さん

「家庭用ゲーム、さらには携帯ゲーム・スマホゲームが台頭して以降、ゲームセンター業界は長期的にみると停滞傾向です。幸いにして、当社直営アミューズメント施設は前年比増の状態ではあるのですが、それでもその多くはリピーターの皆さん。足を運んでいただける方とそうでない方に、はっきりと区分けされてきているんです」

新技術革新が進むなか、アーケードゲーム機1台あたりの価格も割高になり、魅力的なゲーム機を並べるだけでは難しくなっている。

「アーケードゲーム以外を目的に来店される“新たな層”を誘客しなければならなくなり、“そのためにどんなコンテンツが必要なのか”を見つけるため発足したのが、私たち新規ビジネス推進部でした」(相見さん)

試行錯誤の末、相見さんらは同社の「新規ビジネス」として「エンターテインメントツーリズム」を掲げることとなった。これは「地域の観光資源を生かしたゲーム、イベントで誘客を図る体験型ツーリズム」のこと。

タイトーステーション内で「リアル脱出ゲーム」(部屋のなかに閉じ込められた参加者が互いに協力し合いながらヒントをもとにしその場所から脱出する体験型イベントサービス)を開催したのをきっかけに、数々の商業施設から「うちでもやりたい!」と誘客コンテンツとしての要望が集まり、その効果が上々だった。その評判は宮城県大崎市の職員の耳にも入り、市からも問い合わせを受けた。

1市4町との協定締結から生まれた「やくらい星流フェス」

こうして2015年10月10日〜12日、大崎市鳴子温泉にある温泉郷・鬼首(おにこうべ)の山荘で、リアル謎解きイベント「鬼首の夜」を開催することに。「仙台駅から車で2〜3時間はかかる場所で、本当に人が集まるのか不安だった」と相見さんは振り返るが、県内外から約350名が足を運び、9公演はすべて満員だったという。

2017年10月14日、今度は大町市に隣接する宮城県加美町でアウトドアイベント「やくらい星流フェス」が開催された。場所は加美町が誇る標高553mの山・薬莱山麓にある「やくらいガーデン」。400種類の栽培植物が広がる庭園を持つ、総面積15万㎡のリゾート施設である。

やくらいガーデン
「やくらいガーデン」には四季を通し様々な花が咲き誇る

どうやって加美町での開催に漕ぎ着けたのか。実は、鬼首でのリアル謎解きイベントの成功をきっかけに、2016年3月、タイトーと大崎管内1市4町(大崎市・色麻町・加美町・涌谷町・美里町)による「大崎地域の観光振興を目的とする相互連携に関する協定」が締結されていた。その会見で、大崎市長は「大崎地域は観光資源に恵まれているが生かしきれていない。タイトー様の協力を受けて資源をいっそう磨きたい」と期待を寄せている。

この協定締結を1つのきっかけに「やくらい星流フェス」は企画された。当日イベントは10〜16時と16〜20時の2部構成で行われ、プログラムには「リアル謎解きゲーム」など、さまざまなコンテンツが並んだ。これらのイベント全般は「地域と協議しながら」相見さんらがプロデュースを行ったという。

「やくらい星流フェス」プログラム

●リアル謎解きゲーム(13:00〜14:45/16:00〜17:45)
星座などをモチーフにしたリアル謎解きゲーム。謎への挑戦を通じて星座などの知識を得ることができ、夜に行う星空観望会をより楽しむことができる。

●Star Music音楽演奏会(15:00〜15:45)
加美町バッハホール管弦楽団による「星空」「宇宙」をテーマにした音楽の生演奏。

●星空観望会(18:00〜20:00)
加美町のゆたかな自然の中で楽しむ星空の観望会。「星のソムリエ」の資格を持つ「株式会社ビクセン」スタッフによる星空解説とともに、本格的な天体望遠鏡を使用して観る秋の天体を楽しむ。

●ガーデンライトアップ
やくらいガーデン内「コニファーガーデン」の周囲にて、キャンドルライトやLEDによるライトアップを実施。星空をイメージした幻想的な風景が広がった。

●フード&ドリンク
当日中、会場内にフードコーナーを設置。リアル謎解きゲームや星空観望会の合間や園内散策の休憩として、地元の食材を活かしたイタリアンが振る舞われた。

●薬莱山(やくらいさん)登山(昼の部 15:00~17:00 夜の部 20:00~22:00)
加美町観光まちづくり協会の案内のもと楽しむ薬萊山の登山。夜の登山も行われた。

 

期待する効果──移住定住促進へ着地できるか

加美町でも関係者に話を伺った。

「最初の頃は、タイトーさんと加美町の両者の間で、いくつかの意見の違いもありました」

そう振り返るのは、加美町側でイベントを担当した加美町観光まちづくり協会事務局長・鎌田良一さん。その理由の背景にあるのは、加美町側の思惑だった。

鎌田良一さん
タイトーとの意識の違いは、メールや直接会ったときの会話で徐々にすり合わせていったと語る鎌田さん

当地にあるサイクリングロードはサイクリストの間でも有名で、鳴瀬川・薬莱山近辺はジャパンエコトラック(トレッキング・カヤック・自転車等で公式ルートをまわる旅のスタイル)の認定ルートにもなっている。かねてより、同協会と加美町役場は「アウトドアランド形成事業」に乗り出しており、ナイトハイクなどを企画していた。

「2016年の協定締結もあったことから、新たな“夜のアウトドアイベント”の可能性の1つとして県に打診しました。その結果この“やくらい星流フェス”を開催するに至ったんです。だからこそ“リアル謎解きゲーム”のような娯楽性の高いコンテンツがそこにどううまくはまるのか、正直不安な面はありました。しかし結果的には、エリア内のいくつかの場所にテントを張り、そのなかに謎解きのヒントを置いてもらうように企画していただいたことで“アウトドアイベント”として行うことができ、薬莱地区全体をバックグラウンドにゲームを楽しんでもらうことができたと思います」(鎌田さん)

ガーデンライトアップ、夜の薬莱山登山なども行われたことで、当日は「特に夜の集客が多く、1,000名規模の人が集まった」。集客数だけを見れば「一応の成功を見た」といえるかもしれない。

「しかし、私たちの最大の目標は、移住定住促進です。その点でいえば、開催から1年弱しか経っていない今この時点で、イベントにどれだけの効果があったのか測ることはできません。ただ、こうした総合的な施策を続けていれば、加美町に少しでも興味を持ってくれる人が増えていくかもしれません。交流人口増加の可能性に期待を寄せています」(鎌田さん)

まちづくり協会とともにイベントを切り盛りした加美町商工観光課観光物産係の今野歓大(よしひろ)さんもこう付け加える。

今野歓大さん
地域活性化の取り組みには、「とにかくやってみる」という精神が大切だと今野さんは語る

「謎解きゲームのようなイベントを仙台市でやるとなれば、もっとたくさんの人が集まってくるでしょう。僕らのまちと集客力を比べると、絶対にかないませんから(笑)。鎌田さんの言う通りまだその効果は見えていませんが“星空”というコンテンツが有効に組み合わされたことで、これをきっかけに加美町を好きになった人がいつか移住・定住をしにやってくるかもしれない。そのための“実験的なイベント”としては成功したと思っています」(今野さん)

地域の“当たり前”を魅力として発掘する

            
タイトーの相見さんらは、大崎地方でのイベント以外にもこれまで青森県での「リアル謎解きゲーム」「周遊型謎解きゲーム」、甲府でのゾンビイベント「オバケンゾンビパーク甲府」、鹿島アントラーズと共催した「カシマゾンビスタジアム」等々、様々なエリアでエンターテインメントツーリズムに関するイベントを企画している。

2017年7月〜2018年1月にかけては、島根県商工労働部観光振興課の主催で「島根ご当地クエスト」を開催。島根県の世界観を表現したオリジナルキャラクターが登場するスマホアプリorクエストマップ(冊子)を持ちながらエリア内の観光スポットを周遊してもらう「周遊型リアルRPG」のイベントだった。これからもリアルツーリズムを軸にしながら「まだまだ地域の魅力を発掘していきたい」と、相見さんは話す。

「やくらい星流フェスの企画のベースには、加美町からも近い鬼首で僕らスタッフが“星空”に驚かされた、という原体験がありました。自分のような東京人からすると、とても考えられないくらいに星空がきれいで……。でも地元の人からすると“当たり前”のことなんです。我々も“東京の魅力は何?”と聞かれたらわからないけれど、地方から東京に遊びに来た人から“意外にそんなことが魅力だったんだ”と気づかされたりするじゃないですか?

相見将丈さん
相見さんは「地域には“外の人間”にしか気づけない魅力がある」と語る

そうした地域の魅力と、私たちのエンターテインメント企業としてのノウハウを掛け合わせれば、きっとその可能性は無限大に広がるはず。だからこそ我々は、そのためのパズルのピースをたくさん持っておかなければいけません。いろいろな場所に足を運ぶたび“何と何を掛け合わせれば、より地域の魅力を発信できるのか”を考えています」(相見さん)

地方創生も新規事業も即時的な効果はなかなか見込めないもの。しかし、取り組みを継続し、タイトーと加美町双方のビジョンを叶えられていれば、この取り組みはきっと「地方創生」の新たな取り組みとして、全国から注目されていることだろう。


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