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対話促進型のアプローチによって生み出される組織の活力──埼玉大学大学院・宇田川元一准教授×One JAPAN代表・濱松誠さん(前編)

2018年09月14日



対話促進型のアプローチによって生み出される組織の活力──埼玉大学大学院・宇田川元一准教授×One JAPAN代表・濱松誠さん(前編) | あしたのコミュニティーラボ
あしたのコミュニティーラボが2015年秋に取材した「One Panasonic」の活動は、大企業の若手有志団体のコミュニティー「One JAPAN」へと発展した。One JAPANでは各企業の有志団体を集め「共創」していくことを大きな目的に置いている。

そんなOne JAPANで代表を務める濱松誠さんは、その目的を実現するために自身および幹部メンバーの所作として「対話を促進するアプローチ」をとるようになったという。対話を促進するアプローチとは何か? 濱松さんの言うそのようなアプローチは、近年学術界で「ナラティヴ・アプローチ」としても注目されつつあり、「組織の枠組みではやりたいことがやれない」「会社で働くのは息苦しい」など、組織に課題を感じる社員の課題解決の手法としても期待されている。

コミュニティー・組織における「対話を促進するアプローチ」の効果とは? 濱松さんと、ナラティヴ・アプローチの組織論に詳しい埼玉大学大学院・宇田川元一准教授対談から探ってみよう。

組織を変える対話には「覚悟」が必要?──埼玉大学大学院・宇田川元一准教授×One JAPAN代表・濱松誠さん(後編)

新しいことをやってはいけない空気を打破する

──あしたのコミュニティーラボでは以前、濱松さんが発起した「One Panasonic」の活動を取材させていただきました。取材後の2016年9月、大企業の若手有志団体のコミュニティー「One JAPAN」が発足。それから2年ほどが経過しましたね。

濱松 One Panasonicの活動をしていくなかで、One JAPAN共同発起人である東日本電信電話株式会社の山本将裕さん、富士ゼロックス株式会社の大川陽介さんらに出会いました。自分を含めた3人が感じていたのは、大企業の組織内に流れる「新しいことをやってはいけない空気」……。

濱松誠さん
One JAPAN代表・濱松誠さん(写真左)

しかも、多くの若手・中堅社員がその空気を「読もう」としています。そうした共通の課題認識を持ったことがOne JAPAN発足のきっかけです。加盟企業26社ではじめた活動は、現在、その倍の50社にまで膨らんでいます。

──One JAPANの主な活動内容は?

濱松 継続的に行っている活動テーマは「新しい働き方の提案・実践」「若手社員に関する調査とレポート発信」「共創型新規事業・サービス開発」などです。具体的な活動としてこれまでに「One JAPANハッカソン」開催や、「ヘルスケア分科会」、女性による「なでしこ分科会」など、各種分科会を興してきました。

一方で、One JAPANの加盟企業の若手有志や一般枠の方、総勢1,000名弱が集まる「定期総会」と、約50社の加盟企業の代表者を集めた「代表者会議」といった会合も定期開催しています。

定期総会の様子
定期総会の様子(画像提供:One JAPAN)

毎回、新しい働き方やコミュニティーづくりに関するインプットや交流を目的としたセッションを企画するのですが、宇田川さんにはその場に何度か参加いただいています。

──宇田川さんは埼玉大学大学院 人文社会科学研究科の准教授。経営戦略論や組織論をご専門にされています。お2人の最初の出会いは?

宇田川 ビジネスメディア「Biz/Zine(ビズジン)」で連載をしているのですが、そこの記事を読んだ濱松さんが私に興味を持ってくれたことがきっかけです。

旧来の上意下達のような関係性とは違う、新しい関係性みたいなものが今、会社でも社会でも必要になってきていると感じていて、「Biz/Zine」ではたびたびそれに関連した記事を公開していました。

宇田川元一准教授
埼玉大学大学院 宇田川元一准教授

濱松 2016年から1年ほど前まで、私はPanasonicからベンチャー企業に出向をしていたのですが、その当時に読んだ宇田川さんの記事が本当におもしろく、自分が抱えていた悩みにもドンピシャで……。人を介して宇田川さんにアプローチしました。

そして、改めて宇田川さんの組織論やコミュニティー論について話を伺ううち、ぜひOne JAPANのメンバーにもお話をしていただきたいと、2017年12月17日に開催した定期総会「One JAPAN Vol.5」のショートピッチの登壇者としてお招きしました。

「正解を探す」ことではなく「誰かを助ける」──。そんな「弱さを語れるコミュニティー」が今必要とされていて、人と人とがお互いの価値を活かし合えるようにするための「対話」をしよう、という内容でした。

その総会の後、今年3月に開かれた代表者会議(加盟企業の代表者を集めた会合)に宇田川さんをお招きしたときには、ナラティヴ・アプローチについてお話いただきました。

人々が弱さを語り合える状態とは?

──「ナラティヴ・アプローチ」はビジネス界隈でも注目されつつあるキーワードです。改めてナラティヴ・アプローチとはどういうものか、解説いただけますか?

宇田川 対話を通じて新しい現実を生成しよう、という社会構成主義という思想に基づいた研究とその実践のことを指しています。誰でも自分にとって都合の悪いことや正しくないと思うことは、その場から「なくしたい」と考えますよね。相手の言うことが「違う」と感じたら、自分の考えを守ろうとディスカッション(討論)をしてしまう。あるいは、相手に受け容れてもらうため説得をしてしまう。これでは対話になっていません。

ナラティヴ・アプローチでは「討論」でも「説得」でもなく、「対話」を重視します。すなわち、自分の正しさをいったん保留し、たとえどんなことが起こったとしても「一理ある」ことを認める。自分とは違う正しさがあることを認めるのです。そうした“異”を探って新しい接点をつくる対話に挑む──そんなアプローチをナラティヴ・アプローチといいます。

──上司と部下、夫婦間などさまざまな関係性に当てはめられそうですね。

宇田川 会社組織でも、若手社員とかが「自分は正しいことを言っているのに、あの上司から煙たがられた。やっぱり上司はわかってくれない!」なんて事態に陥りがちじゃないですか。

でも実際には、上司は上司で困っている。部下がそれを理解しようと探っていくような対話の実践をしていけば、不満を抱えるだけではない、なにか別の行動を1人ひとりが行えると思うんです。

濱松 その代表者会議の最後の時間に代表者の1人が突然「もっとOne JAPANを良くしていこう!」と、One JAPANの改善点を指摘するようなプレゼンをはじめた。それはOne JAPANに対して“もやもや”を抱えていた層の人たちが、自分の意見を強く主張した場面でした。

宇田川 いきなりのことだったので濱松さんも対応に困るんじゃないかと心配しましたが、濱松さんはその場で1人ひとりの意見をしっかりと傾聴し、対話をしていましたね。

おのずとご自身から対話する姿勢が湧き出てきたと私的には感じましたが、あれこそまさしく対話的な時間だったなと思います。

濱松誠さん、宇田川元一准教授

濱松 総会の後も対話の姿勢を意識してみると「もっと情報共有をしたほうがよい」とか「濱松の考えをもっと知りたい」といった潜在的なことが見えてきました。

自発的に自分の考えを発信したり、行動するメンバーも増えてきています。One JAPANも次のステップを踏み出したな、という実感があります。

会社組織で対話を促進していくためには?

──職場の空気が重くて困っていることを言えなかったり、上司と部下がいがみあったりしている問題は多くの会社組織も抱えています。だからこそ「対話」はさまざまな組織で汎用性がありそうです。

宇田川 硬直化した企業はその問題を払拭できずにいて、会社ではさまざまな人が“もやもや”を抱えたまま、外には出さずにいる。すると結果として「困っていることはない」ように見えてしまいますよね。

私は、きっと多くの企業の経営層も濱松さんと同じ感覚でいるのだと思います。言うべき側のほうが、忖度して言わない。相手はわかってくれないとフラストレーションを溜めてしまう……。

これを放置すれば、メンバーはそのコミュニティーと距離を置いてしまいますから、濱松さんがそれを受け止めたのは、とても大きなことだったと思います。

濱松 上の立場の人間からすると、実践できる人間を増やさないといけませんよね。直接話すことでお互いの理解を深めることも大事ですが、それだけに留まっていてはいけないと思っています。One JAPANではそのあたりの塩梅が難しいと言いますか……。

宇田川 対話というと、ただじっくり傾聴して話をするだけのように思われがちですが、それは狭い意味です。起きている状況を冷静に受け止め、それに対処すべく必要な実践に踏み出していくことの全体が対話のプロセスです。だから、これからのOne JAPANも、色々に出てくる課題に対して、対話のプロセスを進んで、さらによいコミュニティーになっていってほしいですね。

濱松誠さん、宇田川元一准教授

──自ら実践できる人間をつくるという観点で、宇田川さんはどう思いますか?

宇田川 イントラプレナー(社内起業家)の調査をしていると、彼らは会社のなかでどういうふうにすれば話が通りやすいかということをかなり正確に認識しています。そこに自分のやりたいことを乗っけることができるわけです。

私は、そういう人がいる集団を会社にも社会にもつくらないといけないし、One JAPANにもその可能性が秘められていると思います。つまり、まだ「自ら実践」ができない人にとっても、One JAPANが「何を練習すればいいかを知る練習」の場になる。

これまでは「濱松さんたち中心メンバーがやりたいこと以外はやってはいけない」的な誤解があったと思いますが、濱松さんが目指しているのはいろいろなスペクトラム(面)のある集団だと思うし、実際にその方向に進んでいると感じますよ。

濱松 そう、コミュニティーに濃淡はあって当たり前だと思うんです。その誤解が生まれる最大の要因は、対話の欠如。

1人ひとりと対話することは正直しんどいところもあるし、もしかしたらこれまで避けていた自分がいたかもしれないけれど、今回の経験を通してOne JAPANが向かうべき方向性は定まったような気がします。

対話をベースに互いを開示し、新たなステップへ進みつつあるというOne JAPAN。後編では、組織における可能性について伺いました。

組織を変える対話には「覚悟」が必要?──埼玉大学大学院・宇田川元一准教授×One JAPAN代表・濱松誠さん(後編)へ続く

宇田川元一(うだがわ・もとかず)

埼玉大学大学院人文社会科学研究科准教授
1977年東京都生まれ。早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、長崎大学経済学部講師・准教授、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より現職。専門は、経営戦略論、組織論。
社会構成主義の思想に基づくナラティヴ・アプローチを理論的な基盤として、イノベーティブで協働的な組織のあり方とその実践について研究を行っている。07年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。

濱松誠(はままつ・まこと)

パナソニック株式会社 アプライアンス社 コンシューマーマーケティングジャパン本部 イノベーション推進部、One JAPAN / One Panasonic 共同発起人・代表
1982年京都府生まれ。大学を卒業後、2006年パナソニックに入社。北米向け薄型テレビのマーケティング、インドの事業推進に従事した後、2012年に本社人事へ異動し、パナソニックグループの採用戦略や人材開発領域に従事。現在は、家電部門にて新規事業を担当する。2012年組織活性化をねらいとした有志の会「One Panasonic」を立ち上げる。2016年、NTTグループやトヨタ、富士ゼロックスなど、大企業の同世代で同じ課題意識を持つ者たちを集め「One JAPAN」を設立、代表に就任。現時点で50社・1200名の有志が参画。共創や新しい働き方の実現に向けて、取り組んでいる。
2018年9月27日、One JAPANとして書籍「仕事はもっと楽しくできる – 大企業若手 50社1200人 会社変革ドキュメンタリー」(プレジデント社)を上梓。


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