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組織を変える対話には「覚悟」が必要?──埼玉大学大学院・宇田川元一准教授×One JAPAN代表・濱松誠さん(後編)

2018年09月14日



組織を変える対話には「覚悟」が必要?──埼玉大学大学院・宇田川元一准教授×One JAPAN代表・濱松誠さん(後編) | あしたのコミュニティーラボ
ナラティヴな対話の実践を経て、変革期を迎えつつあるOne JAPAN。One JAPAN代表・濱松誠さんは、メンバーとの「対話」により、One JAPANを「弱さを語れるコミュニティー」へと激変させ、埼玉大学大学院・宇田川元一准教授は「メンバーのOne JAPANとの関わり方が変わっていった」と評価する。では、それと同様のアプローチは会社組織でも展開は可能なのか。引き続き、濱松さんと宇田川さんの対談から探っていこう。

対話促進型のアプローチによって生み出される組織の活力──埼玉大学大学院・宇田川元一准教授×One JAPAN代表・濱松誠さん(前編)

観察—解釈—介入のサイクルをまわすアダプティブ・リーダーシップ

──ナラティヴ・アプローチにおける「対話」は、一般的に使われる「対話」とは別の意味のような感覚もありますよね。

宇田川 面と向かって話す──そんな“せまい意味”での対話ではなく、もっと“広い意味”での対話です。私の好きな研究者に、ロナルド・A・ハイフェッツという人がいて、彼は「アダプティブ・リーダーシップ」という考え方を提唱しています。

想定外のことが起きたときにまずは「観察」をする。次に「解釈」して、最後に「介入」をするという考え方です。介入した後も再び観察し、「解釈」「介入」のサイクルをまわす、それこそが広い意味での「対話」です。

濱松 観察—解釈—介入、ですか。

宇田川 たとえば今日、取材の前に挨拶を交わしたとき、濱松さんは今日のTシャツとジーンズという結構ラフな格好で会社に通われていると知りました。

通常の会社組織ではおそらく、多くの人が「なぜスーツで会社に通うんだろう?」ともやもやした気持ちを引きずったまま通勤していますよね。でも実際は、スーツじゃなくラフな格好で行っても会社は許してくれるかもしれない。それを濱松さんは実践されました。これもある種の「観察—解釈—介入」です。観察と解釈の上で、もやもやに切り込む介入をしているわけです。

さらに、もやもやを抱えていた社員も、濱松さんがTシャツにジーンズで通う姿やそれに対する周囲の反応を観察。「意外と大丈夫そうだ」と解釈すれば、次の行動として「自分もラフな格好で行ってみようかな」と新たな介入がはじまる……。

濱松 なるほど(笑)。

宇田川 あと、上司がわかってくれない問題もそうですね。部下の側は「上司がどういうことで困っているのか」とか「どういう文脈にあるのか」という観察からはじめ、その部下なりの解釈から介入の仕方を決めていく。そこで起きていることはとりあえず「正しい」と考えるのが、ナラティヴ・アプローチであり、アダプティブ・リーダーシップに求められることです。

宇田川元一准教授
埼玉大学大学院 宇田川元一准教授

昔『踊る大捜査線 THE MOVIE 2』という映画がヒットしましたよね。がちがちの官僚機構である警察組織と、それとは対照的な自律分散型に組織された犯罪者集団が対決するようなストーリーです。警察は当初、指示命令系統のない犯罪者集団にしてやられますが、途中、警察側の捜査チームのトップが室井監理官というリーダーに変わり、最終的には捜査チームが活性化され、犯罪者集団に勝つ──そんな結末でした。

このとき陥りがちなのが「官僚機構のようながちがちの組織はやっぱりだめなんだな」とか「指示命令系統のない自由な組織は強い」という誤解です。彼らは全員警察官。そこには必ず「ディシプリン」(編集部注:規律・訓練などの意味)があります。それがあるからこそ、作中の警察は犯罪者集団に勝つことができた。

──どういうことでしょうか?

宇田川 がちがちな組織が解き放たれ、みんなが自由になりさえすれば、ぜんぶうまくいく──。それは大きな誤解であって、会社組織にも同じことが言えます。みんながみんな、何も努力しなくて好き勝手にやっていれば変わるなんて幻想でしかなく、組織のなかに厳しいディシプリンがあって当然なんです。

そのうえで組織のメンバーは「会社にとってこのラインは大丈夫」だとか「これだったら自分の言っていることをわかってもらえる」だとかを考え、話しだす。これこそ前述の「観察—解釈—介入」ではないでしょうか。

対話には覚悟が必要

濱松 ティール組織でもセルフマネジメントの大事さが語られているように、自分勝手に振る舞うことじゃなくて、ちゃんと組織のディシプリンを活かせる個になっていくことが大事ですよね。

濱松誠さん、宇田川元一准教授
One JAPAN代表・濱松誠さん(写真左)

宇田川 本当に組織を変えたいのであれば、変えるためにそれぞれが身につけなければいけないことが必ずあります。そして、それぞれが何を身につけなければいけないのかわからないのだとしたら、そこに「対話」が必要です。

濱松 そう考えると「対話」には覚悟が要りますよね。

宇田川 まったくその通り。誰かを変えるには、相手に痛みが生じますから、それを分かち合う覚悟も必要です。

濱松 One JAPANでも「挑戦する個を増やす」ということをたびたび言ってきたのですが、宇田川さんを含めたいろいろな方のお話を聞くなかで、今の実践が「個」を変えるきっかけにもなればいい、と思っています。

──個を変える、組織を変えるという考えの一方で、コミュニティーづくりの実践者には組織の“外側”、すなわち「批判的な人」「無関心な人」を自分のコミュニティーのなかにどのようにして巻き込めばよいか悩んでいる人も多いようです。濱松さんの場合、この問題にどう立ち向かっていますか?

濱松 プライオリティの問題かもしれませんが、私個人の気持ちとしては、そうした人たちは巻き込まなくてよいと考えています。Panasonicは従業員数27万人の企業ですが、One Panasonicに参画しているのはわずか3,000人。One JAPANにしても参画企業はたった50社です。全員を巻き込むのはどだい無理な話。

ただ全員でないにしても、自分たちに関心を持ってくれる人を1人でも多く集めたいのだとしたら、まずは自分たちの実力をつけるほうが先決ではないでしょうか。

宇田川 その通りだと思います。まるで興味を示さない人、何を言っても否定的な側面ばかり見てくる人はどんな組織でもいるもので、最初にそういう人から巻き込もうとすると挫折してしまいます。今のOne JAPANがそうであるように、仲間内で語り合うことでそのコミュニティー自体が語りはじめ、わざわざ人を呼び込まなくとも人が集まってくることがあると思います。もちろん、結果としては、ネガティブに見ていた人たちも、やっていることの意味がわかってきて参加してくることもありえますよね。

ナラティヴ・アプローチが医療・看護の領域から生まれた理由

──対談も終わりの時間が近づいてきました。最後に、今日お話いただいた「対話」や「ナラティヴ・アプローチ」の姿勢を崩さないために、必要な個人の素養についてご教示いただきたいのですが、濱松さんの場合は対話をすんなりと受け入れられたことのベースに、どんな体験があったと思いますか?

濱松 何年か前、Panasonicの先輩に新浪剛史さん(元・ローソン取締役社長および会長、現・サントリーホールディングス代表取締役社長)のセミナーに連れて行ってもらったのですが、そのとき、「経営者にいちばん大切なのは対話」だと話しておられたのが印象に残っていました。『なぜ会社は変われないのか』という本を出されたスコラ・コンサルトの柴田昌治さんともお会いする機会がありましたが、同じように対話の重要性を伺いました。そして今回、宇田川さんにもそれを教えてもらった。

宇田川 今回、私はたまたま講演の機会をいただきましたが、これはひとえに濱松さんを含めた実践者の方々の努力の結果だと思います。One JAPAN のメンバーの方々が、ナラティヴの視点からの私の投げかけに少し触発されて語りはじめた。私は傍らで見ていただけに過ぎません。

濱松誠さん

濱松 もう1つ、ベースということでいえば、もともと自分の性格的にも、1人で何かをしようというタイプじゃなく、アイデアがあるから起業しようとも考えません。人と交流したり、人と話したりすることがそもそも大事だと考えるタイプなんだと思います。

──宇田川さんのお考えはいかがでしょう?

宇田川 「人との交流を厭わない」以前のマインドとして、想定外の事態があったときに湧き出てくる恐れを受け止められるかどうかが肝心だと思います。

もともとナラティヴ・アプローチは、医療や看護の分野から生まれた考え方でした。通常医師は、自らの専門性を崩すことなく患者と向き合うため「医師の診断は正しい」「患者は病気についてわからない」という関係性で結ばれます。

しかしこのとき、医師が自分の専門性をいったん脇に置き、患者が語ることの患者の生活世界なりの正しさを受け止め、その中で専門性を活かそうという対話的なプロセスが実践されたのが、ナラティヴ・アプローチです。

濱松誠さん、宇田川元一准教授

病気になればそれまで自分にとって当たり前だった「健康な生活」との断絶が起き、「当たり前だったことが当たり前じゃなくなった」「どうしよう、心配だ……」と不安を抱えるうち、恐れが湧き出てくる。

一方で、医師も患者が自分が良いと思うことに対して、患者から不満を持たれたり、拒否されたりすることもある。逆の側にも恐れはあるんです。その時に、専門性の観点から正しい説明を試みてもうまくいきません。双方の恐れや不安を専門性で乗り切ろうとするのではなく、互いの視点をうまく生かしあえるようにすることが、対話ですよね。

日常生活でも、たまに自分にとって理解しがたい「よくわからない人」に出会うと思いますが、そのときに「わからない」ってことを「なぜだろう?」と考え、その後に「それがおもしろい」と思えるという態度が、ナラティヴ・アプローチの第一歩なのではないでしょうか。

──現状の自分にとって、理解しがたい意見、わからない意見が生じたとしても、対話的な態度を意識すると、その意見をいったん受け止め、それについて一緒に考えてみることができるはず。その土台をもとに異なる意見や価値観にヒントを見出すことで、新規事業創出やイノベーションといった革新的な事柄が見出せるのではないでしょうか。本日はどうもありがとうございました。

大企業の若手社員はどう行動し、自らの仕事を“楽しい”ものに変えていったのか──。One JAPANの活動が1冊の書籍として発売されます。「仕事はもっと楽しくできる – 大企業若手 50社1200人 会社変革ドキュメンタリー」(プレジデント社)

対話促進型のアプローチによって生み出される組織の活力──埼玉大学大学院・宇田川元一准教授×One JAPAN代表・濱松誠さん(前編)

宇田川元一(うだがわ・もとかず)

埼玉大学大学院人文社会科学研究科准教授
1977年東京都生まれ。早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、長崎大学経済学部講師・准教授、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より現職。専門は、経営戦略論、組織論。
社会構成主義の思想に基づくナラティヴ・アプローチを理論的な基盤として、イノベーティブで協働的な組織のあり方とその実践について研究を行っている。07年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。

濱松誠(はままつ・まこと)

パナソニック株式会社 アプライアンス社 コンシューマーマーケティングジャパン本部 イノベーション推進部、One JAPAN / One Panasonic 共同発起人・代表
1982年京都府生まれ。大学を卒業後、2006年パナソニックに入社。北米向け薄型テレビのマーケティング、インドの事業推進に従事した後、2012年に本社人事へ異動し、パナソニックグループの採用戦略や人材開発領域に従事。現在は、家電部門にて新規事業を担当する。2012年組織活性化をねらいとした有志の会「One Panasonic」を立ち上げる。2016年、NTTグループやトヨタ、富士ゼロックスなど、大企業の同世代で同じ課題意識を持つ者たちを集め「One JAPAN」を設立、代表に就任。現時点で50社・1200名の有志が参画。共創や新しい働き方の実現に向けて、取り組んでいる。
2018年9月27日、One JAPANとして書籍「仕事はもっと楽しくできる – 大企業若手 50社1200人 会社変革ドキュメンタリー」(プレジデント社)を上梓。


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