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【イベントレポート】Play(遊び・楽しさ)からはじまるまちづくり@夕張

2018年10月10日



【イベントレポート】Play(遊び・楽しさ)からはじまるまちづくり@夕張 | あしたのコミュニティーラボ
日本列島を襲う酷暑が嘘のように涼風が心地よい夏の北海道夕張市。2018年8月3〜7日、沼ノ沢地区の廃校を舞台に、地元の人もよそ者も入り混じって学び合うイベント「学交祭」が開催されました。交流と学び合いのなかから課題解決の知恵を探る「学交プロジェクト」を紹介した「あしたのコミュニティーラボ」もこのイベントに参加。「Playからはじまるまちづくり」をテーマに、トークセッションを展開しました。地域を元気にするのは、誰もが関わりやすい楽しさや遊び心ではないか──。そんな仮説をもとに対話したひとときをレポートします。

遊びのなかで情熱がたぎり目的も明確に

2018年8月3〜7日に開催された「学交祭」では「夕張“村”キャンプinゆうばり」「Kidsアイデアソン」「北大生と一緒に夏休みの宿題を考えよう!」等、子どもが楽しみながら学べるプログラムが展開されました。

同時に、大人が膝をつき合わせて語り合うプログラムとして、夕張市の財政破綻の実情を赤裸々に語る「夕張破綻学 第1回研究会」、地域の身近な困り事や可能性について考える「第2回 沼ノ沢集落課題検討会議」も開催されています。

「あしたのコミュニティーラボ」主催のトークイベント「Playからはじまるまちづくり」にも、多くの来場者がお越しいただき、行政・市民・大学・企業と各々異なる立場の登壇者とともに、まちづくりや地域課題解決にむけたアクションについて語り合いました。

モデレーターは、富士通総研の佐々木哲也さん。

佐々木さんはイベントの冒頭、ハーバード大学のトニー・ワーグナーによる「これからのイノベーター育成に大切な3ステップ」を紹介しながら、来場者へ次のように語りかけます。

「第一にPlay(遊び)、第二にPassion(情熱)、第三にPurpose(目的)。最初がPlayであるところがミソ。遊び楽しむなかで興味や関心が芽生え、そこから情熱がたぎり、目的がはっきりする。まちづくりにPlayをどう生かせるか、今日はともに考えていきましょう」

富士通総研の佐々木哲也さん
富士通総研の佐々木哲也さん

与えられた配役を楽しむことから始める

ゲスト4名が次々に登壇します。まずは、あしたのコミュニティーラボ「北海道夕張市・よそ者と地域が交わり課題に挑む」にも登場いただいた夕張市産業振興課主幹の佐藤学さんです。

佐藤さんは、10年前に夕張市が財政破綻したとき、夕張市観光課の職員でした。観光ハコモノ行政の失敗、不適正な会計処理……。まさに破綻の要因を生んだ「末端プレーヤーの1人」だったと明かします。そんな佐藤さんが衝撃だったのは、まちを去っていく仕事仲間が多いなか、住民に「学くん、残ってくれるのか、ありがとう」と言われたこと。

「いうなれば加害者が被害者に感謝されたのです」

そのとき佐藤さんは改めて「公務員の責任とは何なのか?」と考えました。財政破綻後に就任した故・藤倉肇市長からは「人生は配役。今はまちの再生が役割。役はいつか終わるのだから、今は与えられた配役を楽しめ」と助言されたそうです。「ありがとう」と「人生は配役」。このふた言が佐藤さんの意識を変えました。

夕張市 産業振興課主幹の佐藤学さん
夕張市 産業振興課主幹の佐藤学さん

自分に与えられた配役を考えた末、佐藤さんは「夕張の未来」について次のように考えるようになりました。「これからも夕張の人口は減り続け、これを放置すれば住民1人当たりの負担も着実に増えていきます。将来を担う若年世代だけにその負担を押し付けることはできません」。

そこで佐藤さんが着目したのが、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司さんが提唱する「幸福度の因子」。人の「幸福度」は「やってみよう!」(自己実現と成長)、「ありがとう!」(つながりと感謝)、「なんとかなる!」(前向きと楽観)、「あなたらしく!」(独立とマイペース)の4因子で決まる、とする考え方です。

「これを夕張に置き換えれば、地域の課題を『課題』と思わない発想力、『お互いさま、ありがとう』と思える共助の精神、そして失敗を恐れない前向きな挑戦心を持つことで、再生に向けた基盤づくりが行えると考えています」(佐藤さん)

そのうえで佐藤さんが強調するのが「外部の人とのつながり」です。炭鉱で栄えた夕張には、見知らぬ人たちが家族のように寄り添って危険な仕事から命を守り合う「一山一家」の習わしがありました。先人の文化を次世代に引き継ぐべく「課題をオープンにして外部の人からも知恵をもらいたい」と佐藤さん。

「『誰かがやってくれる』『どうせ無理』のあきらめ感を払拭し、自ら率先して動く『活動人口』を地域が主体となって増やし、育成する。同時に、移住に結びつくことにこだわらず、夕張市のまちづくりに多様な関わりを持ってくれる『関係人口』を増やす。これらの連鎖によるまちづくりこそが、債務返済を終える10年後の先を見据えた夕張のビジョンだと考えています」(佐藤さん)

真面目な課題を面白がる軽やかさを大切に

以降もゲストが順に登壇します。

釧路生まれの名塚ちひろさんは、はこだて未来大学を卒業後、富士通デザインに入社。しかし「まわりはみんな結婚するし、寝食忘れて取り組む何かがほしい。お堅い仕事も自分には向いていないかも、とモヤモヤ感を抱くようにもなっていた」。そんな折、地元出身の友人・夏堀めぐみさんと「釧路で何かしよう」と盛り上がり、2014年、市民団体「クスろ」を立ち上げました。

クスろでは、まちの魅力を支える「ひと」に焦点を当て、地元に住んでいる人も、釧路を訪れた人も“クスッ”と笑えるアクションを起こすことをめざし、ウェブサイトやフリーペーパーで発信。メディア発信のみならずイベント開催やプロジェクト活動も行っており、「釧路の若者に向けて『選挙へ行こう!』と軽やかに呼びかけた」という「サーセンキョ!」も好評でした。

クスろ副代表の名塚ちひろさん
クスろ副代表の名塚ちひろさん

「『クスろ』が大切にしているのは、真面目な課題を面白がる軽やかさ」。そう話す名塚さんは「新しいものを創り出す楽しさに目覚めた」「人生を変えるなら今だ!」と、2016年、富士通デザインを退社し、地元へUターン。2017年7月には仲間3名と自然豊かな阿寒町で築65年の古民家を改装し、ゲストハウス「コケコッコー」をオープンしています。

阿寒町は夕張と同様、かつて炭鉱で栄えた過疎のまちです。名塚さんたちは「住民と一緒にまちをなんとかしたい」と、ペンキ塗りや家具づくりなどを手伝ってもらうなどの「住民参加」でコケコッコーをつくりあげました。さらに名塚さんたちも積極的にまちのイベントや畑仕事にも参加したそうです。そんな“遊び”の甲斐もあってか、オープニングパーティには近所の人たちが詰めかけました。「それから、少しずつまちが変わりはじめています」。コケコッコーのような新規店舗ができるのは10年くらいぶりのことでしたが、コケコッコーのオープンから1年足らずのうちに、また新たな出店者も現れました。

「釧路で何かしたい人の“これから”の関わり方。阿寒町の“これから”を生み出す拠点やきっかけづくり……。そんな“釧路のこれから”を私たちはデザインしていきたいです」

アミューズメントの掛け合わせで未来の都市生活を

神戸大学大学院システム情報学研究科准教授の藤井信忠さんは、イベントを起点としたまちづくりについて語りました。

藤井さんが実行委員として関わる「078」は「音楽×映画×IT×ファッション×食×キッズ×アニメ」の7分野をひとつにまとめたクロスメディアイベント。第1回(2017年)は約3万6500名、第2回(2018年)は約7万5,300名の来場者を集めました。「コンテンツを持ち寄るだけでなく、気づきを日常に持ち帰り、神戸ならではの価値を生み出す社会実験・実装の場として『078』を位置付けている」と藤井さんは語ります。

神戸大学大学院システム情報学研究科准教授の藤井信忠さん
神戸大学大学院システム情報学研究科准教授の藤井信忠さん

さらに藤井さんは、これまでの078を振り返り「1年目は『まずやってみよう』。2年目は規模を拡大し、着実に成長してきたと実感している」と話します。そんななか、次の「3年目」の開催に向けた課題は「単発のイベント開催だけで終わらせず、078でこれまでに生まれたアイデアをより多面的に展開し、最終的には社会実装にまでつなげる仕組みづくり」です。

「3年目は、どのような要素を投入すればどのような価値が生まれるか、初期スキームの集大成を図ります。1987年に小規模で始まったアメリカ・テキサス州オースティンのSXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)も30年後の現在、音楽、映画、IT、スタートアップ企業などが多様に入り混じる世界最大規模のイベントにまで成長しました。078もやるからには30年間は続けたい。新しい神戸ならではの都市生活の価値を体現するイベントへと成長させたい」

最後には夕張市へメッセージを送りました。

「これまで神戸は“おしゃれでカッコいいまち”という従来のイメージにあぐらをかいていました。そんなとき、阪神淡路大震災に見舞われた……。状況的には、経営破綻後の夕張にも似ていませんか? 神戸では災害復旧債を完済し、財政が健全化されたばかり。だからこそ行政や市民のあいだで、まちを変えていこうとする機運が満ちあふれています。夕張もその一歩手前の状況。ポテンシャルのあるまちだと感じています」(藤井さん)

遊び心を発揮し地域課題をテクノロジーで解決

岡田英人さんは富士通で自治体のシステム開発を担当してきました。2017年から新しいテクノロジーを地域課題解決のために活用するサービス開発に取り組み、多様なステークホルダーと一緒にアイデアを出し合い新しい価値の創出をめざす「共創」の方法論を模索しています。

「もともと富士通グループで働いていた名塚さん、あるいはここにいる皆さんにとっての『富士通』にはきっと『お堅い』というイメージがあることでしょう。行政向けのビジネスも展開しているのである面ではその通りなのですが、実は『お堅い』仕事ばかりでもないんです……」

以降、名塚さんのいう“お堅い”イメージの富士通が、“しなやかに”地域の困りゴトとテクノロジーをマッチングして課題解決に挑戦している事例がいくつか紹介されました。

富士通の岡田英人さん
富士通の岡田英人さん

その1つが、福岡県糸島市での「移住希望者マッチング」でした。

ここでは九州大学と連携し、AIを活用。移住希望者と候補地をマッチングする実証実験を行いました。希望者が属性を入力すると、移住に対して何を重視するのか解析し、AIが適地を推薦します。

また、さいたま市での「入所選考マッチング」では、これまで10日以上かかっていた保育所入所の選考作業が、複雑な選考パターン、ロジックをAIのアルゴリズムによって判断。わずか3秒で終わるように効率化しました。「このときは糸島での試行が役立ちました」。

遊び心から始まったサービスの紹介はまだ続きます。台湾、香港でダウンロード数1位を記録する人気スマホアプリ「Payke」と島根県との連携事例です。バーコードを読み取ると利用者の母国語で商品情報が表示される「Payke」の活用により、特産品の購買促進にチャレンジしました。

「実は富士通も、介護保険システムや住民票を発行するようなシステムだけではなく、ちょっとひねったところで遊び心を発揮しながら、テクノロジーで地域課題解決をしています。それは夕張市でも同じです。これを機会に、アイデアを考えるところから一緒に取り組んでいきたいです」

岡田さんは富士通が挑む「共創」によるサービスを次々に紹介した
岡田さんは富士通が挑む「共創」によるサービスを次々に紹介した

楽しそう、面白そうにしていると自然に人は集まる

イベント後半から、モデレーター・佐々木さんと登壇者の対話が進みます。

「実のところ『Play=遊び』はとても難しいキーワードですよね。市役所、大学などがいくら『遊ぼう!』といくら呼びかけても、周囲の人はどうやって遊べばよいのかわからない。企業などでも『遊び心を持て』と言うと、得てして悪ふざけのような『悪い遊び』の状態になりがちです。本質的な『良い遊び』をどのように引き出せばよいのでしょうか?」(佐々木さん)

その問いかけに名塚さんは「アイデアが出にくいときは、あえて自分が逆説的に悪ふざけにも近いことを言うことで、まわりの人からアイデアが出やすくなることもある」と話します。さらに「デザインの勉強をしたときにPlayを意識したことがあるか?」と佐々木さんから問われ、こう話しました。「デザインの勉強をしたときに先生から『100案を出せ』と言われたことを思い出しますね。20案くらいでアイデアは出尽くし、その先は突拍子もない方向に行かないとアイデアは発散しません。アイデアの発散にはどうしても遊び心が必要になります」。

同じ質問を受けて「そもそも大学教員という職業柄、仕事と遊びの境目がない」というのは藤井さん。「大人が楽しそうにしていると、自然に学生は集まってくる。そこから新しい出会いやネタも生まれる。仕事と遊びを区別するのではなく、『好きなことに熱中する=遊び』が伝わればいいのではないか」。企業の立場からはどうでしょうか? 「確かに企業のなかでの『遊び』は難しいけれど……」と岡田さんも語ります。「仕事なのか遊びなのかではなく、要は本人の『やる気スイッチ』が入って、モチベーションが高まるかどうかではないか」。

イベントの後半からは、モデレーター・佐々木さんからゲスト4名に「Play」からのはじめ方について質問がぶつけられた
イベントの後半からは、モデレーター・佐々木さんからゲスト4名に「Play」からのはじめ方について質問がぶつけられた

その「やる気スイッチ」は夕張で入っているのでしょうか。佐藤さんは次のように話します。

「若い人たちにバトンを渡すには“あいつやっとるわ”という姿を見せないとはじまりません。その点、自分を含めて公務員は『立場』を気にしがち。これでは『個性』を殺して鎧をまとっている状態です。でも公務員は本来『個性』で勝負しなければいけない。遊び心を発揮するには、個性を捨ててはいけません」

トークセッションの後には、複数のゲスト(来場者)スピーカーも登壇。藤井さんと同様に、078の運営メンバーで、神戸市企画調整局産学連携課に在籍する長井伸晃さんは、イベントの内容を受けて次のように発言しました。

「私も仕事に対して遊び心を持ちながら面白くやっているタイプです。そうしないとクリエイティブな発想は絶対に出てこない。怒られるまでこのスタンスでやり続けるつもりですし、怒られても気にしないです(笑)。佐藤さんのお話にもあったように、汗をかいて人と人とをつなぐことが、行政には求められているのだと思いました」(長井さん)

イベント中には「あしたラボ」ともゆかりのあるゲストスピーカーも登場。神戸市企画調整局産学連携課の長井伸晃さん(左上)、No Maps実行委員会事務局長の廣瀬岳史さん(右上)、一般社団法人サステナビリティ・ダイアログの牧原ゆりえさん(左下)がショートスピーチを行った。来場者には「ギークハウス@夕張」の徳谷康憲さん(右下)の姿も
イベント中には「あしたラボ」ともゆかりのあるゲストスピーカーも登場。神戸市企画調整局産学連携課の長井伸晃さん(左上)、No Maps実行委員会事務局長の廣瀬岳史さん(右上)、一般社団法人サステナビリティ・ダイアログの牧原ゆりえさん(左下)がショートスピーチを行った。来場者には「ギークハウス@夕張」の徳谷康憲さん(右下)の姿も

気軽に楽しく集まれる学びの場から挑戦が始まる

その後には、会場の参加者と登壇者が入り混じって関心のあるテーマに分かれ、さらなる対話を深めました。そのやりとりを踏まえて、登壇者がそれぞれ今回のイベントを振り返ります。

「いろんなコミュニティがつながることでまちが結果的に元気になっていく。そのために企業も学校も行政も含めた学びの場をつくることが大切」(藤井さん)

「地域課題は会議室で考えているだけでは絶対に解決しない。現場を体験し汗を流して課題を皆さんと共有し、ともに解決の道筋を探っていきたい」(岡田さん)

「夕張も釧路も課題が山積していて、自分から動いて挑戦できる余地が大きいのは素晴らしい。釧路もどんどん外から人を呼んで知恵を混ぜ合わせたい」(名塚さん)

「学びの場では上下関係がなく対等。これが気軽に集まれる大事な要素。北海道大学の先生にも以前言われたが、財政破綻で未来の縮小ニッポンを図らずも先取りした夕張は“周回遅れのトップランナー”。それを自覚して走りたい」(佐藤さん)

新たなまちづくりのうねりが起こりつつある「夕張」に惹かれ、多くの来場者がつめかけた
新たなまちづくりのうねりが起こりつつある「夕張」に惹かれ、多くの来場者がつめかけた

「Playからはじまるまちづくり」──。誤解を恐れずに言えば、今の日本のあらゆる組織に足りないのは、遊ぶように仕事をし、仕事をするように遊ぶ「けじめのなさ」ではないでしょうか。

情熱や目的は上から押し付けられても生まれません。楽しいから続けられてゴールが見える。その様子を外から見ていた人が「自分もやってみようか」と動き出す。「与えられた配役を楽しめ」のひと言が市の職員を動かした夕張は、そんなことを考えるのにふさわしい場所でした。


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