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人工物が「生命性」をまとったとき、社会はどう変わるのか?——ALife Lab.青木竜太さんインタビュー

2018年11月21日



人工物が「生命性」をまとったとき、社会はどう変わるのか?——ALife Lab.青木竜太さんインタビュー | あしたのコミュニティーラボ
人工生命——ALife(Artificial Life)とは、生命の成り立ちやしくみなど生命現象の原理に迫ろうとする研究分野だ。人工生命研究は、これまでの情報技術が得意としてきた「計算」「最適化」という領域を超え、「自律性」や「進化」などをもカバーするという。研究が進み、生命のしくみが解明されていくことで、社会はどう変わっていくのか。 2016年7月20日に始動した、人工生命研究者と他分野との共創を促進するコミュニティー「ALife Lab.」の共同設立者の一人で、アートやサイエンス、カルチャー領域におけるコミュニティーデザイン等を手がけてきた青木竜太さんにお話をうかがった。

「ありえたかもしれない生命」を探求する

——人工生命(ALife)とは何なのでしょうか?

青木 ごくごく簡単に言えば「生命を探究する研究分野」です。もとをたどれば「コンピューターの生みの親」とも言われるフォン・ノイマンが人工生命の基礎的なモデルをつくったとされています。

それ以降、生命の進化のしくみや動きを参考にしたアルゴリズムが生まれ、1987年、理論生物学者/コンピューター科学者のクリストファー・ラングトンによって正式な研究分野として提唱されました。生命の成り立ちやしくみなど、生命現象の原理すべてに迫る世界であり、何か1つの研究領域ではどうにもならず……。複雑系や数学、ロボット工学、人工知能、バイオテクノロジーなど、関連する研究領域は多岐にわたり、とても学際的(注:研究や事業がいくつかの領域にまたがること)であることが大きな特徴です。

株式会社オルタナティヴ・マシン代表取締役/ヴォロシティ株式会社代表取締役社長の青木竜太さん
株式会社オルタナティヴ・マシン代表取締役/ヴォロシティ株式会社代表取締役社長の青木竜太さん

——同じく生命を対象とする「生物学」との違いは?

青木 生物学は「地球上にいる(あるいは、過去にいた)生命」を対象にし、それらの対象を掘り下げて研究しますが、人工生命では「ありえたかもしれない生命」を対象にします。

地球誕生からこれまでに計5回の大量絶滅があったとされていますが、今地球上にいる生物はそれらの絶滅と自然淘汰をくぐり抜けて生き残ったものたちです。しかし、その過程にはかなりの偶然性が入り込んでしまっているため、今いる生物だけを見ても「生命の本質」にはたどり着けません。だからこそ「ありえたかもしれない生命」を対象にした人工生命の研究者たちが存在します。

それゆえに「研究アプローチ」も生物学とは異なります。生物学では還元主義的に、複雑な事象を単一の要素にまで細分化し、その1つひとつを見極めようとします。しかし、人工生命の場合はまったく逆で「つくってみなければ、わからない」。これを「構成論的アプローチ」と呼んでいます。

——人工生命研究における「構成論的アプローチ」とは、どのようなものでしょう?

青木 人と人の関係性は「人」というパーツだけを見ていたら何もわかりませんよね? 集団があってはじめて、人同士の関係性がわかる。それと同じように、人工生命も個々の要素だけを観察してもわからないことが多く、ソフトウェア(コンピューターシミュレーション)、ハードウェア(ロボット)、ウェットウェア(生化学反応)などを駆使して1つの現象をつくり、それを観察していくというアプローチなんです。

——人工生命は「人工知能」と混同されることも多いのではないでしょうか?

青木 両者の違いをわかりやすく言うならば、人工知能は主に「自動化」を追求していくものです。一方、人工生命は「自律化」——すなわち自然界にいる生物のように、自ら意思や行動を決定していくシステムを追求します。そしてその研究アプローチは、人工知能が上から指令を与える「トップダウン型」だとすると、人工生命はローカルな情報を吸い上げて行動をつくっていく「ボトムアップ型」です。

青木竜太さん
「ボトムアップで知性をつくっていくというのが人工生命的なアプローチである」と青木さん

iRobot社のロボット掃除機「ルンバ」は、人工生命研究から生まれたプロダクトのなかでも大成功した部類に入ります。

同社の創業者で現MIT人工知能研究所所長のロドニー・ブルックス氏は、人工生命研究者でもあります。ブルックス氏は、「最初に部屋全体を認識させるのではなく、まずその空間にロボットを入れ、壁にぶつかったりしながら情報を取得する。つまり環境に適用させながら行動することにより、結果としてロボット掃除機としての機能を満たすことができるだろう」というアプローチで、今のようなプロダクトに行き着いたと言われているんです。

当時、AI研究者のなかではトップダウン型のアプローチでロボットに空間を認識させてから行動させることが主流でした。そのため、ボトムアップ型のルンバはAIの重鎮たちから批判され、無視されていました。しかし、最終的には当時の常識とはまったく異なるそのしくみが評価され、AI研究の最高賞を受賞しました。

——たしかに「ルンバ」は生命的な振る舞いをしますよね。

青木 これは活動をともにさせていただいている人工生命研究者の池上高志さん(東京大学大学院情報学環教授)がよくおっしゃることですが「人間の頭のなかに知性が存在しているわけではなく、環境のなかに知性が埋め込まれている。そしてその環境との“相互作用”から、知性を発見していっている」——そうした相互作用から生まれる現象を「創発」現象といいます。これは、人工生命研究においてキーとなる考え方です。

生命の「そこにいる感じ」をアートで共創する

——青木さんと人工生命研究の出合いは?

青木 2016年の初頭、文部科学省が取りまとめる「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」というプログラムがあり、私はメディアアーティストの江渡浩一郎さんに誘われるようなかたちで、そのカンファレンスのコンセプト設計やキュレーションなどを担当させていただきました。そのイベントの司会を担当してもらったのが、すでに池上さんと人工生命の共同研究をされていたウェブサイエンス研究者・岡瑞起さん(筑波大学准教授)でした。

当時は「ALIFE 2018」(世界中の人工生命研究者が集まる国際カンファレンス、2018年7月23〜27日に日本科学未来館で開催)の東京誘致が控えていた時期で、岡さんからコミュニティー創出の活動をしていた私に、「一緒にやりませんか?」と誘っていただいたんです。

「ALIFE 2018」の様子
2018年7月23〜27日に日本科学未来館で開催された「ALIFE 2018」の様子(You can use these photos under Creative Commons License (BY-NC 3.0)The photo credit is “ALIFE Lab.”)

——同年にはそのお2人とともに「ALife Lab.」という任意団体を立ち上げています。なぜ青木さんにお声がかかったのでしょうか?

青木 池上さんと岡さんのもっぱらの課題は、これから日本国内だけでなく全世界で人工生命研究のコミュニティーをいかにつくるか、ということでした。しかし「ALIFE 2018」のような大きな国際カンファレンスを単発で開いても、コミュニティーにまで育てることは難しい。もともと人工生命研究が学際的ではあるとはいえ、大学や研究機関のなかだけだと建築家やアーティストのような人々とコラボする機会にはなかなか巡り会えません。

そこで研究者だけでなく、アート・デザイン・音楽・ファッション・メディアなども参画できる「他分野との共創を促進するプラットフォーム」として「ALife Lab.」を立ち上げました。

青木竜太さん
「ALife Lab.」発足のきっかけとなった岡さんとの出会いを語る青木さん

——具体的にはどのような「共創」が展開されていますか?

青木 かねてより私が日本で活動していた「Art Hack Day」というアートに特化したハッカソンがあったのですが、2018年2〜3月には「ALife Lab.」と連携イベントを開催しています。そこでは参加者に人工生命に関する知識や話題を共有したうえで「BEING THERE」をテーマにアート作品を制作してもらいました。

——テーマになっている「BEING THERE」とは?

青木 直訳すれば「現れる存在」ですが、もう少しわかりやすく言えば「存在感」でしょうか。

池上さんはたびたび、生命が生命性を持つための条件として、先ほど申し上げた「自律性」と「相互作用性」とともに、この「存在感」を挙げられています。言葉にするのはとても難しいのですが、生命は「そこにいる感じ」を持っていますよね。 人間も、話し相手の顔を見て表情の変化を感じられると「話している」という感覚を持ちますが、オンラインで会話していると、回線がずれたりしてどうもうまくコネクトしない。これも「存在感があるか、ないか」という1つの例です。

Art Hack Day2018で特別賞を受賞した制作チーム「team anima」の「Moment of Perception – 認知の瞬間」は、羽根や針金などが壁の上を動いている、そこに人が近づくとその瞬間にバラバラになって消えてしまう——そんな、生命がさっきまでそこにいたけどいなくなってしまった「消失感」を表現した、非常におもしろい作品でした。


「Moment of Perception – 認知の瞬間」

エンジニアの方ならよくわかると思うのですが、自分で触った技術には愛着がわくもの。こうした啓発活動をしつつ“人工生命好き”を少しずつでも増やしていきたい、という狙いもあります。

また、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんとは、ALIFE 2018のなかで子ども向けワークショップ「ALIFE for Kids | Future Biology for Kids」を開催しました。ほかにも、ALife Lab.とコラボレートし、微生物の働きを可視化できるオリジナル電子工作キットなどを開発しています。今後はALIFE 2019に向けて、研究者の論文発表につながるように活動を発展させていきたいと考えています。

自動化のアンチテーゼとしての人工生命的発想

——人工生命は社会的にどんなことに応用できるとお考えですか?

青木 私個人の意見として答えるならば、人工生命の最先端研究が直ちに社会で利用されるというよりは、人工生命の研究から生まれてきた進化アルゴリズムなどの情報技術やシミュレーション技術が社会に応用できるケースが結構たくさんあるのではないか、というイメージを持っています。

青木竜太さん
「人工生命の研究が直ちに社会実装されるのではなく、今あるものに生命性が見出されることでさまざまなことが変わっていくのではないか」

池上さんと岡さんとは、人工生命の理論や情報技術を社会に応用するため「株式会社オルタナティヴマシン」という会社も設立したのですが、そのコンセプトは「あらゆるものに生命性をインストールする」というものです。

たとえばパソコンやスマホなどに生命性がインストールされたらどうなるのか。先ほどの「存在感」にしても、もしも情報技術でそれを生み出せたとしたら、それは「飽きのこない技術」になるかもしれないし「愛着を生み出す技術」になるかもしれません。これはこれまでの「効率化の技術」とはまったく違う思想に立っていますよね。

そういったことが実現していけば、ものの買い方も変わるかもしれません。たとえば、身の回りのものがペットのような存在になったり、ペットのような振る舞いをしたりしたらどうでしょう。古くなったら新しいものに買い換えるという発想ではなく、どう長生きさせるかを考えるようになるでしょう。人間が本来持つ優しさに働きかけられるようになるかもしれません。

——たしかに「ルンバ」はすでにそういう存在かもしれません。

青木 人工生命研究者の中でよく話題にでる「アイボ/ルンバ問題」というのがあるんですよ。アイボとルンバ、どちらに愛着がわくのか。たいていの人はルンバのほうが可愛いと言います。一生懸命自律的に自分の部屋を掃除してくれる姿には愛着がわくけれど、アイボはどうも機械的に感じるみたい(笑)。でもアイボを供養する人もいるくらいですから、アイボだって生命性を持っていると言えるのかもしれませんが。

——「人工知能」が1つの研究分野として確立したのは1950年代のこと。60年が経った今、すでに多くの人に認知されており、社会実装もますます進んでいくでしょう。一方の「人工生命」はラングトンが提唱してから30年。さらに“もう30年”が経ったとき、人間にとってどのような存在になっていると思われますか?

青木 技術的観点でいうと、人工知能、特に深層学習は「最適化」を目指した技術であり“正解”を与えてくれます。ネットなんかでも自動化によって検索結果などから広告配信やレコメンドをしてくれますが、それは便利な一方で、思想的な偏りや分断も起こってしまう。

もちろんそれにまつわる研究者・技術者は「より便利にするために」「社会をよりよくするために」と活動しているわけですが、正解だけを与え続けることで結果として、負のスパイラルが起こっているのではと感じています。

たとえば、最近ではSNS上で「あなたに最適なFacebookグループはこれですよ」と自動的に自分に合うコミュニティーを勧めてきますが、なんか気持ちがのらないときってあるじゃないですか。人は、アルゴリズムに則ってレコメンドされたものよりもむしろ、ほんの数日だけでもリアルに関わったコミュニティーのほうに魅力を感じたりするものです。

結局、正解を与え続ければ何もかもがうまくいくわけではなく、もっと生命的に調整できるようなシステムがその“裏”では必要になっていくのではないか。そして、それを補ってくれる存在が「人工生命」なのではないでしょうか。

青木竜太さん
「人工生命の考え方を応用すれば“正解を探す”ではないシステムのあり方がみえてくるのではないか」

人工生命は「最適化」だけではなく「(環境への)適応」を目指します。人間のいわば最強の機能は「エラーを起こせること」であり、それがあるからこそ正解とのズレを認識し、そのズレを進化につなげてきました。もう少しわかりやすくたとえるなら、池上先生がよく例としてあげるのですが、人工生命はドラえもんのような存在です。

あの作品のなかでは、ドラえもんがのび太に最適な道具——人工知能的に言えば「最適化された道具」——を必ずしも出してくれない。ドラえもんからもらった道具を使って、のび太はたいてい一度失敗しますよね。でも考えてみてください。結果としてのび太とドラえもんは、さまざまな失敗を繰り返しながら信頼関係を深め合い、作中でともに成長していくんです。人工生命が目指す未来は、きっとそういう「共進化」できる世界なのではないか。そんなことを考えています。

青木 竜太(あおき・りゅうた)

株式会社オルタナティヴ・マシン代表取締役/ヴォロシティ株式会社代表取締役社長


2011年にコミュニティの創出・運営を専門とするデザインファーム「VOLOCITEE Inc.」を起業。同年、TEDからライセンスを受け「TEDxKids」プログラムを日本で初めて開催。2014年に日本初のアートに特化したハッカソン「Art Hack Day」を立ち上げる。2016年に茶人・裏千家の松村宗亮らとともにアート集団「The TEA-ROOM」や野外音楽フェスティバルTAICOCLUBとともにリサーチプロジェクト「TAICOLAB.」をプロデュース。同年、複雑系科学/ALife研究者の池上高志、ウェブサイエンス研究者の岡瑞起らと「ALIFE Lab.」を設立し、翌年の2017年に同設立メンバーで「Alternative Machine Inc.」を創業。アートやサイエンス、カルチャー領域で、コンセプトデザイン、クリエイティブディレクション、プロジェクトのプロデュースや事業開発をおこなっている。
http://ryutaaoki.jp/


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