Cases
社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

薬用植物・機能性植物の新たな価値を創造せよ──「日本薬用機能性植物推進機構」がめざす未来(前編)

2019年01月09日



薬用植物・機能性植物の新たな価値を創造せよ──「日本薬用機能性植物推進機構」がめざす未来(前編) | あしたのコミュニティーラボ
薬草(薬用植物)と聞けば漢方薬の原料を思い浮かべる。だが昔の人たちは、野山に自生していたそれらの植物を食用にもすれば煎じ薬にもして、ふだんの暮らしに活用していた。薬草に限らず野菜や果物を含め、ほとんどの植物は健康に役立つ何らかの価値をもっている。それを健康機能性植物ともいう。再びその価値を掘り起こして国産品目を増やし、地域に特色ある新しい植物産業を生み出せないか──一般社団法人「日本薬用機能性植物推進機構」の取り組みを探ってみたい。

効率的な生産システムとAIを使った新たな「適地適作」 ──「日本薬用機能性植物推進機構」がめざす未来(後編)

食べておいしく、生薬にもなる昔ながらの山菜

「山でうまいはオケラにトトキ、里でうまいはウリ、ナス、カボチャ、嫁にくわすも惜しゅうござる……」。

信州長野に古くから伝わる唄だ。ウリ、ナス、カボチャはわかるにしても、「オケラ」「トトキ」とは何だろう?

オケラはキク科の植物。若芽は山菜として食べられ、根は健胃や整腸に効く生薬になる。京都八坂神社の元旦の神事「白朮(おけら)祭」は、オケラの根を燃やしてかがり火にしたことに由来する。トトキはツリガネニンジンの別称。キキョウ科の植物で、やはり若芽は食用となり、根は煎じ薬にした。

古謡に歌われてきたのを何よりの証拠に、食用にも薬用にもなるこれらの植物は、かつてふだんの私たちの暮らしの中でなじみ深いものだった。野山に自生するこうした植物を利用することは、庶民の生活の知恵として日常に根づいていた。

健やかな暮らしに役立つこのような「薬用植物・機能性植物」の価値を改めて見直し、国内栽培のサプライチェーンを構築することによって、地域ごとに特色ある新たな植物産業を創出し、健康社会の実現を目指したい──。そんな目的を掲げて2018年3月、千葉大学環境健康フィールド科学センター(千葉県柏市)内に設立された一般社団法人が「日本薬用機能性植物推進機構」だ。

千葉大学環境健康フィールド科学センター外観(提供:千葉大学 渡辺 均さん)
千葉大学環境健康フィールド科学センター外観(提供:千葉大学 渡辺 均さん)

国産品目を効率的に生産・供給できるしくみづくり

一般的に薬草と呼ばれる薬用植物は漢方薬の原料。漢方薬は市販されるほか、医療機関でも医薬品として保険診療に使われ、薬価(国に定められた医薬品の公定価格)に基づいて処方される。薬用植物はかつて国産が多かったが、現在はおよそ8割が中国からの輸入品だ。

「オタネニンジン(チョウセンニンジン)などは江戸時代から栽培され、外貨を稼ぐ輸出品でした。日本の薬用植物の栽培技術は優秀で品質も高かったのですが、変動相場制の導入による円高、薬価の引き下げ、さらに安価な中国産が出回りはじめると、国内の栽培農家は生計を立てられなくなったのです。その結果、栽培農家は激減し技術革新も停滞。すると生産量が激減し、後継者がいなくなるという負のスパイラルに落ちてしまったのです」

そう話すのは、千葉大学環境健康フィールド科学センター准教授(農学博士)で日本薬用機能性植物推進機構代表理事の渡辺均さん。「最近では、薬用植物の価値が見直され、農水省と厚労省が連携して生産者と製薬会社をマッチングするなど、薬用植物の国内生産を盛り返す機運が高まっています。ただ、現状のままでは単価が安いので新規参入しにくい。智恵を絞り、地域で昔から使われていた植物をもう一度見直して国産化できる品目を開発し、最新の農業技術によって安定的に品質の高いものを効率的に生産・供給できるしくみづくりをおこなうのと同時に、薬用植物の新たな価値をつくることも必要です」

日本薬用機能性植物推進機構代表理事の渡辺均さん
日本薬用機能性植物推進機構代表理事の渡辺均さん

土地によって異なる植物の成分と可能性

「いま耕作放棄地や休耕田を活用する農業法人が増えています。通年雇用を維持するには、農閑期に薬用植物や機能性植物を栽培するのも有効な手段のひとつ。薬用植物だけ育てることを生業にするのは難しいにしても、地域や生産者の実情に合わせて適宜、生産体系に当てはめられるような品目づくりはできます」(渡辺さん)

千葉大学環境健康フィールド健康センターでは全国160箇所から「ヨモギ」を集めてハウスで栽培している。

「どれひとつとして同じ形や成分のものはない」と渡辺さんは強調した。「同じ条件で一斉に栽培すると、草丈が高い系統や低い系統、葉の大きさもばらばら、植物体が吸収した鉄分は多い系統と少ない系統で10倍も違うし、抗酸化活性だと100倍近くも違います。鉄分の含有量も地域の土壌環境によって変わるので、ここのヨモギは鉄分が多いので貧血を防ぐ女性向け飲料の原料によいとか、ここのヨモギは毛の量が多いから高級モグサの原料によいなど、さまざまな提案ができるのです」

全国に生息するヨモギも、土地土地によって成分量や大きさも様々(提供:千葉大学 渡辺 均さん)
全国に生息するヨモギも、土地土地によって成分量や大きさも様々(提供:千葉大学 渡辺 均さん)

このように多くの薬用植物や機能性植物には地域の風土に根ざした特色が遺伝的に隠されている。その価値をうまく利用して発信できれば、それぞれの地域の新しい特産物として成長する可能性が高い。

実際に、薬用植物を使用した新たなビジネスに取り組む存在もある。台湾発、女の子のための漢方ライフスタイルブランドDAYLILY(デイリリー)や、千葉県の薬草園跡地でボタニカルブランデーを作るmitosaya 薬草園蒸留所は、これまでのいわゆる“薬草”という捉え方でなく、若く新しい価値観で薬用植物を捉えている好例だろう。さらに、あしラボでも紹介した石見銀山生活文化研究所も、地元の植物を染料に加工して服づくりを行い、薬用植物の可能性を広げている。

後編では、薬用植物の苗を効率的に生育できるシステムと、ICTを活用した栽培技術確立のための実証実験について紹介し、未来への展望を探る。

効率的な生産システムとAIを使った新たな「適地適作」 ──「日本薬用機能性植物推進機構」がめざす未来(後編)


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • RSS

Copyright 2019 あしたのコミュニティーラボ