Cases
社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

効率的な生産システムとAIを使った新たな「適地適作」──「日本薬用機能性植物推進機構」がめざす未来(後編)

2019年01月09日



効率的な生産システムとAIを使った新たな「適地適作」──「日本薬用機能性植物推進機構」がめざす未来(後編) | あしたのコミュニティーラボ
漢方薬や健康食品の原料となる薬用植物、機能性植物の大半は中国をはじめとする海外からの輸入に頼ってきたので、国内生産のノウハウが十分に積み上がっていない。 だが、耕作放棄地や休耕田を活用するなどして国産品目の栽培を進める機運が高まってきた。「日本薬用機能性植物推進機構」では、優良な系統を選抜し育苗期間を短縮できる生産システムを使って農家に薬用植物や機能性植物の苗を提供し、AIを活用して栽培データを蓄積する実証実験を進めている。後編ではこの取り組みを紹介し、新たな植物資源を基軸にした地域創生の未来を考えてみたい。

薬用植物・機能性植物の新たな価値を創造せよ──「日本薬用機能性植物推進機構」がめざす未来(前編)

2年かかっていた「トウキ」の収穫を1年に短縮

千葉大学環境健康フィールド科学センター内にある「高度化セル成型苗生産利用システム」。安全で高品質な植物の苗を大量生産できる施設だ。日本薬用機能性植物推進機構では、このシステムを使って育苗期間を短縮し、栽培技術の効率化をはかり、農家に野菜や花、薬用植物等の苗を提供している。

約5,600㎡の敷地内に「自動化播種ライン→発芽室→人工光閉鎖型育苗室→育苗ハウス→自動化移植ライン→栽培ハウス」の施設構成。用土を充填し、種子をまき、水やりをして苗を育て、ポットに移植するまでをオートメーションで行い、省力的に高品質な苗を量産することができる。

たとえば薬用植物のトウキ(当帰)だと、これまで1万本の苗が欲しいなら30万粒の種子を撒き、1年かけて良い苗を選抜しなければならなかった。きわめて歩留まりが悪いし、種まきから収穫まで2年もかかる。千葉大学環境健康フィールド科学センター准教授(農学博士)で日本薬用機能性植物推進機構代表理事の渡辺均さんは、もっと効率的に苗を生産できる栽培技術を研究開発した。

トウキの根は血液の巡りをよくする効能があるとされている(提供:千葉大学 渡辺 均さん)
トウキの根は血液の巡りをよくする効能があるとされている(提供:千葉大学 渡辺 均さん)

「根が太くなる優良なトウキの系統をまずつくり、できた株の中で、どの部分の種子を採ると均一で発芽率が高いかをつきとめます。そうやって採取した優良な種子を高度化セル成型苗生産利用システムで育苗し、それを今度は畑に定植し、実際に根の状態や収量を確認するわけです。このような研究を5〜6年続けた結果、苗を効率的に生産できるようになり、種まきから収穫までに2年かかっていたのを1年に短縮することができました。こうして生産した苗を各農家に提供しています」

育てられたトウキの苗は南三陸と山形の協力農家で約2ha栽培され、漢方薬の原料として使われる見込みだ。前編の冒頭で触れた「オケラ」も同様に育苗し長野県の農家で栽培。これから品目も作付面積も増やし、医療用に限らない薬用植物、機能性植物の多様なサプライチェーン構築につなげていく。

スマートフォンで音声入力し生育データを蓄積

スーパーで売っているような野菜や果物の農作物は育苗から栽培、収穫に至るまでノウハウがすでに確立している。だが、これまで多くを中国からの輸入に頼ってきた薬用植物、機能性植物の場合、先のようなシステムによって安定的に種苗を確保できたとしても、効率的に栽培できる生産ノウハウが国内の農家に積み上がっていない。ICTを活用してこの課題に挑む取り組みが進んでいる。

千葉大学と富士通株式会社(日本薬用機能性植物推進機構の一員)の連携による実証実験が2018年4月から2019年3月まで続く。「スーパーで手に入る農産物並みに薬用植物や機能性植物の生産効率を上げ、産業として成り立つようにするためにICTを活用できたら」と取り組んでいるのは富士通デジタルフロント事業本部の財満仁美さん。「産業にするために安定生産は欠かせません。その入口として、薬用植物の場合、基本的な生育状況のデータが揃っていないので、それらを集めるところからはじめています」。

財満仁美さん
富士通デジタルフロント事業本部の財満仁美さん

群馬県、千葉県、奈良県、大分県の協力農家に薬用植物の苗を提供。協力農家は栽培中に植物の草丈や株幅、花や種子の付き方などの生育状況をスマートフォンで音声入力すればよい。音声データはAI(自然言語解析)によってデータ項目に自動分類され、栽培データ記録システムに蓄積される。同時に、設置したフィールドセンサーで気温・湿度・地温や気象データなどの環境データを収集し、その関連性を可視化。データをもとに専門家が栽培支援を行い、さらにその結果がシステムに蓄積されていくしくみだ。

「実証実験で得られた知見を生かして全国に薬用植物の栽培を広めたい。ICTは時間と距離を超えられるので、皆さんの実践知を共有すれば高品質な品目を効率よく栽培できる知恵が集約されます」と財満さんは話している。

地域の価値ある植物資源を活用した「適地適作」

日本薬用機能性植物推進機構は、薬価に縛られる薬用植物だけでなく、名称に『機能性植物』とあるように、青果物や緑化植物など幅広い植物を活動の対象にしている。

そういった人々の健康な生活に役立つ植物の新たな用途の可能性を探るのも同機構の目的のひとつ。そのためには、土地によって異なる自生植物の特徴を理解し、「ある土地のヨモギは飲料の原料に、別の土地のヨモギは高級モグサの原料に」、といったように“植物の個性”から可能性を探ることが大切だ。

「適地適作」という言葉がある。地域の環境にふさわしい農産物を、地域に合った方法で生産することだ。「風土に根付き生育する薬用植物の価値を再発掘し、健康で快適な生活に役立つ地域色豊かな植物産業を創り出す」——日本薬用機能性植物推進機構が掲げるこうしたビジョンは、全国一律の規格品に合わせた農産物の横並び産地間競争の袋小路を打破する道筋の一つにちがいない。

前述した「石見銀山生活文化研究所」(島根県大田市)と、こちらも今年「あしたのコミュニティーラボ」で紹介した「じもvege」プロジェクト(宮城県仙台市)。前者は地元の里山で集めた植物を原料にした草木染づくり、後者は市民農家の地産野菜を軸にしたコミュニティづくりだが、これらも適地適作に通じる地域活性の試みにほかならない。日本薬用機能性植物推進機構のビジョンと呼応する新たな潮流だ。

渡辺さん
「わたしたちの生活の中に薬用植物や機能性植物がもっと身近になれば、未病につながり、ひいては医療費の削減にもつながる可能性がある」と渡辺さんは語る

渡辺さんは「北海道から沖縄まで多様な気候風土の中で、地域の価値ある植物資源を活用し、地域の健康を自分たちで安定的に継続して守るしくみをつくれば、それによって地域内でお金が回るサイクルが生まれ、よそからも多くの人たちがやってくるはず」と望ましい未来像を描く。

地域の長期的なビジョンを描く農業者を大学、企業が支援し、付加価値の高い薬用植物や機能性植物を栽培品目に組み込んで新たな適地適作を実現すること。種苗の供給と実証実験を通じ、その一歩を踏み出す挑戦がはじまっている。

薬用植物・機能性植物の新たな価値を創造せよ──「日本薬用機能性植物推進機構」がめざす未来(前編)


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • RSS

Copyright 2019 あしたのコミュニティーラボ