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データを元に眠りの“処方箋”を提供する——生体情報解析プロジェクト(前編)

2019年01月16日



データを元に眠りの“処方箋”を提供する——生体情報解析プロジェクト(前編) | あしたのコミュニティーラボ
AIやIoTデバイスの普及によって、「ビッグデータ」は私たちの生活に身近なものになってきた。そんななか、富士通では「生体情報を解析し価値を創出するプロジェクト」の1つとして、人の睡眠に関するデータを解析、改善する技術を産業界で新たなサービス提供につなげる取り組み「睡眠状態解析プロジェクト」を行っている。本稿ではそんな「睡眠状態解析プロジェクト」から生み出されたサービスの価値を東京西川の「ねむりの相談所」の取り込みを題材に考える。活用事例からみえてくる、生体情報(バイタルデータ)がもたらす可能性とは。

快眠食×生体情報で“料理”の社会的価値を高める?——生体情報解析プロジェクト(後編)

睡眠のコンサルティングサービスを提供する「ねむりの相談所」

そもそも生体(主には人体)から発する情報を私たちは「生体情報(バイタルデータ)」と呼んでいる。今日、医療機関では心電図、血圧、心拍数などの生体情報をモニタリングしており、家庭でも体組成計などを使った生体情報モニタリングが日常的に行われている。

さらには、Apple Watchのようなバイタルセンシングバンドも広く普及している。しかし、多くの人は可視化したデータを活用する手前で留まっているのが現状ではないだろうか。そんななか、生体情報を活用し、眠りの疑問や悩みを解決しようとする新たな取り組みを紹介したい。

老舗寝具メーカー・東京西川ではユーザーへの睡眠コンサルティングサービスとして、2017年3月から「ねむりの相談所」を開設している。

全国で23店舗を展開する「ねむりの相談所」ではスリープマスター(同社教育制度で認定される社内資格)と呼ばれる眠りのプロフェッショナルたちが専用のコンサルティングシートに沿いながら、相談者の平均睡眠時間、睡眠前後の行動、寝室環境、寝具の状態等、眠りに関するさまざまなトピックをヒアリング。生活習慣のアドバイスやよりよい睡眠をかなえる寝具・快眠雑貨等の商品レコメンドを受けられる。

東京西川が開設した「ねむりの相談所」

そんな睡眠コンサルティングサービスのなかに実装されたのが、富士通株式会社と共同開発した「睡眠環境解析サービス」だ。

被験者には加速度センサーが搭載された活動量計が貸出される。貸出期間は1〜2週間程度。直径2cm程度の活動量計をズボンのベルト付近に装着して生活すれば、日中の運動量から睡眠時間、睡眠時の体の向き、寝返りの回数まで、睡眠の質に関わる生体情報が測定される。その測定結果については、睡眠ポリグラフ検査(PSG)による脳波検査等を用いた専門的な測定機器との相関を確認済みだという。

活動量計は直径2cm程度と小型で、衣服にひっかけて使用できる

さらに2018年からは、東京西川の一部の店舗で、新たなセンサーを追加し、理想的な寝室環境を提案する取り組みとして「寝室チェックシステム」を開始した。こちらは3〜5日間、自宅ベッドの枕元付近に専用のセンサーを置き、寝室の温度・湿度・照度・音圧を測定するというもの。

寝室の環境を測定するための専用センサー

「お客様の場合は仕事が忙しい日に眠りが浅くなる傾向があります。寝室の明るさを落として、間接照明を用いるなど、リラックスできる環境づくりを意識してみましょう」——たとえばこんな具合に、スリープマスターたちは寝具のみならず、その顧客の寝室環境の見直しを含めた最適な提案を行えるようになった。

「いびきをかく、寝付きが悪い、夜中に目が覚めてしまう……など、睡眠に何かしらの悩みを持つ日本人は7〜8割くらい存在すると言われています。さらにそのうち9割は睡眠に関するアドバイスを受けたことがありません」

そう話すのは、東京西川 営業戦略担当の吉川公美子さん。さらにその先にある課題について吉川さんは続ける。

「そもそも寝具を購入するのに、売り場の店員が自分の睡眠に関する悩みを聞いてくれるとは思っていない——。そんなことがうかがい知れるデータだと思います。当社はそこに課題を感じていました。創業1566年の当社が452年の間に蓄積してきた知見・ノウハウを製品開発のみならず、お客様の商品選びにも使っていただきたい。そこで実現したのが『ねむりの相談所』でした」(吉川さん)

東京西川 営業戦略担当の吉川公美子さん

これまでは主観に頼らざるを得なかった「眠りの質の改善」。東京西川「ねむりの相談所」では生体情報と寝室環境のデータを掛け合わせ、可視化・分析の自動化。一歩先を行く専門店ならではの睡眠コンサルティングサービスを実現した。

枕、ベッド、マットレスなどの寝具はネット通販や大手生活雑貨店でも割安に購入できる。そのことから「わざわざ東京西川のような専門店にまで足を運ばない人も増えている」。また、眠りの質を可視化するスマホアプリも複数リリースされているが、それらを踏まえたうえで吉川さんは、自社の強みを次のように説明する。

「『ねむりの相談所』の強みは眠りのプロフェッショナルであるスリープマスターがいて、かつ、データの可視化により、その先々に必要なソリューションをトータルで提案できる点。“人と技術が一緒になっていること”に私たちは大きな価値を感じています。お客様の睡眠に関するデータが可視化されていれば、それを裏付けとしながら『お客様の場合はこうだから、これが最適です』といった具合に自信をもってご提案でき、結果としてお客様も納得して商品をご購入いただけていると感じています」(吉川さん)

『ねむりの相談所』ではビジュアライズされたデータに基づいて睡眠のコンサルティングを受けられる

生体情報解析の先にあるICTの新たな価値

「可視化された生体情報にAIのアルゴリズムや専門家のノウハウも組み合わせ、データに“意味づけ”を行えれば、その結果として改善手段を示す “処方箋”——生体情報を分析することで体の声を理解しモノ・コトを提供できるようになるはず」。そう話すのは、睡眠環境解析サービスの開発メンバーであり、富士通による「生体情報解析プロジェクト」を統括する富士通 山地隆行さん。

富士通株式会社 共創イノベーション事業部 兼 株式会社富士通研究所 AI社会実装プロジェクト 山地隆行さん

「体温計や血圧計で得られた情報は1日のなかのその瞬間のデータに過ぎず、非連続な状態。かつ、白衣高血圧(病院という特殊な環境下で計測することにより、ストレスや緊張状態から一過性の高血圧を招く現象)があることからわかるように、データが取られていることを意識させない要素も生体情報解析では重要です。連続していて、かつ無意識な状態でデータが取れる——そんなことを考えていたなかで『睡眠』というキーワードが生まれました」(山地さん)

東京西川における睡眠環境解析サービスは、専門店の強みを増幅させる装置となり、接客の質そのものを変えたといえるのではないだろうか。それこそが、生体情報解析の先にあるICTの新たな可能性なのかもしれない。

前編はここまで。後編では、生体情報解析から創出されるもう1つのサービスを紹介する。テーマは「食」。「睡眠×食」の新たな可能性とは何か、ABCクッキングスタジオでのユースケースに迫っていく。

快眠食×生体情報で“料理”の社会的価値を高める?——生体情報解析プロジェクト(後編)


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