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快眠食×生体情報で“料理”の社会的価値を高める?——生体情報解析プロジェクト(後編)

2019年01月23日



快眠食×生体情報で“料理”の社会的価値を高める?——生体情報解析プロジェクト(後編) | あしたのコミュニティーラボ
富士通による「生体情報解析プロジェクト」の1つとしてスタートした「睡眠状態解析プロジェクト」。前編では、睡眠改善アドバイスサービスを導入し、より睡眠のコンサルティングサービスを提供する「ねむりの相談所」(東京西川)のユースケースに迫った。後編のテーマは「睡眠と食」。心地よい眠りと食の深い関係に光をあてABCクッキングスタジオと共同で開発した「快眠食レシピ」を紹介する。

データを元に眠りの“処方箋”を提供する——生体情報解析プロジェクト(前編)

食から睡眠を変える、栄養学に基づいた「快眠食レシピ」

富士通株式会社の社内プロジェクトとして「生体情報解析プロジェクト」がスタートしたのは2013年のこと。「モノ・コトの提供」を実現したのが、寝具専門店・東京西川との協業(前編)だった。

さらには、睡眠の改善をテーマに活動を拡げていくなかで食とのコラボレーションもはじまった。ABCクッキングスタジオによる快眠食レシピの開発である。1985年に創業し、「世界中に笑顔のあふれる食卓を」——そんな企業理念のもと、料理教室「ABCクッキングスタジオ」を全国展開し、調理用雑貨等の販売も行っている。教室数は2018年10月現在で125スタジオ。スタッフは4,000名を超える。


レッスンの様子(提供:ABCクッキングスタジオ)

そんな同社で5年ほど前、ヘルスケア事業部が立ち上がった。

「当社では“食がもたらす喜びを1人でも多くの人に伝えたい”そんな想いをもって、全国で料理教室を運営しています。それに加え、栄養学に基づいた新たなコンテンツづくりとしてスタートしたのがヘルスケア事業部です。レシピ提案やセミナー、料理レッスン等の企画・運営母体として『ABC HEALTH LABO』も立ち上げました」(ABCクッキングスタジオ ヘルスケア事業部 部長 木下富枝さん)

「ABC HEALTH LABOの活動の一環として、女性に寄り添った『妊活』をテーマにセミナーを開催。将来妊娠を望む上でも大切な正しい知識や食生活が学べる座学、調理デモンストレーションを行いました。おかげさまで大きな話題を呼びました」。


ABCクッキングスタジオ ヘルスケア事業部 部長 木下富枝さん

さらには「この活動を社内だけに留めることなく、社会的な健康増進活動に役立ててもらうため外に向けても活動しよう」と、自治体や企業との取り組みもはじまった。たとえば、当地の食文化から「塩分の摂取量が全国平均よりも高い」という課題を持っていた山梨県富士吉田市では、減塩をテーマとしたレシピを開発。食生活改善委員へのレッスン提供も行った。

しかしこうして多くの献立やレシピが開発されていくなかでも、木下さんのなかで新たな課題が芽生えていった。それは「栄養学に基づく献立やレシピをいくら大量に持っていてもその効果検証には踏み込めていない」ということ。そんな時に、富士通から睡眠に効果のあるレシピ(快眠食レシピ)の開発と効果を検証する実証について相談がありました。「そこでその可能性を試すために始めた取り組みが、快眠食レシピの開発でした」。

睡眠時の生体情報をレシピの効果検証に活用

快眠食レシピ開発の過程で、富士通の生体情報を解析する技術を分析に使用した。

具体的には160名のモニターを募集。2週間のモニタリング期間中、半分の日に快眠食を、もう半分の日には一般的な食事を調理・実食してもらった。


「そして収集された計2,000日分以上の睡眠データを分析。『入眠時刻までの時間』と『夕食の内容』などを検証してみたのです」と富士通 山地隆行さん(右)

そもそも眠りと食にどんな関係があるのだろうか。木下さん曰く、特に重要なのは「深部体温」(体の内部の温度)の変化だ。

人は食事を摂ることで、深部体温を上げる。食事から数時間が経って入眠時になると、その熱は手足や体表面から放出され、深部体温が低下する。「食後に深部体温が上がっているほど熱放散が促進され、上質な眠りを得やすくなることがわかりました」。

快眠食レシピでは、鍋料理や香辛料を含んだ料理により、深部体温の上げ下げをサポートすることでスムーズな入眠を促す効果などの検証を行った。そして、食事から入眠までの時間によって効果の有無を統計的に確認した。料理を温かいまま提供するための、冷めにくい器選びなども検証したという。


栄養学に基づいて開発した「快眠食レシピ」

レシピ開発後の快眠食モニターへのアンケートによれば、快眠食レシピにより「ぐっすり眠れた」「目覚めがよかった」と回答する人は、一般食より約10%多いこともわかった。さらには実に9割以上の人が「夕食の内容により睡眠が良くなった」と実感したという。


レシピに基づいて調理された「快眠食」(提供:ABCクッキングスタジオ)

2018年7月には、富士通の同じプロジェクトに参画していることが縁となり、ABCクッキングスタジオの管理栄養士と、東京西川のスリープマスターを招き、食事・睡眠の両面からアドバイスを行う「快眠セミナー」が開催された。約70名が参加し、大盛況のイベントとなったという。

「快眠セミナーを実施し、改めて睡眠に対する悩みを持っている人が多いことに驚きました。また、日頃の食生活が睡眠の質に影響をしていることを知っている方は少なく、『食』が睡眠や健康と結びついていない現状がありました。今回、快眠食レシピの栄養素や作り方をお伝えするだけにとどまらず、富士通さんと一緒に取り組み、様々なデータを解析し可視化できたことで大きな成果につながりました。

これからますます日本の介護問題や、医療費の増加、女性の社会進出による健康課題が危惧されます。食の大切さを発信するABCから『おいしい、楽しい、プラス健康』という料理本来の価値が社会的にもっと拡がり、社会問題を解決していくことが私たちの描く理想のかたちです」(木下さん)

データを用いて組む相手ごとに姿を変える「牛乳のような存在」に

2つのユースケースから紹介してきた「睡眠状態解析プロジェクト」——。

東京西川のように睡眠のコンサルティングサービスに活用するケース、ABCクッキングスタジオのようにレシピ開発後の効果検証に活用するケースと、コアとなる技術の部分は同じでも、その領域や活用のされ方は実にさまざまだった。

このほか、西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)も同サービスを導入している。同社では安全かつ安定した輸送実現のため、センサーで自動計測した生体情報から睡眠状態を可視化・分析。専門家の知見を用いた200種類の分析結果と3,800通り以上のアドバイスを自動生成しながら、乗務員に眠りのアドバイスを提供している。「睡眠状態解析プロジェクト」の対象領域はまだまだ拡大中だ。

本プロジェクトの舵取り役である富士通 山地隆行さんは「自分たちは牛乳のような存在」だと表現する。

「元になるアルゴリズムは同じものでも、組む相手が変わるとその姿が変わり、多様なサービスを生み出せる。そういう意味だと自分たちはチーズやバターにもなるし、コーヒー牛乳にもなる、そんな『牛乳』のような存在になりたいのかもしれません」(山地さん)


「相手に合わせて姿も変えることで、多様なサービスを生み出せる」と山地さん

また、注目すべきはいずれのケースにおいても、データやテクノロジーがその領域の専門家である“人”が新たな価値を創出するために活用されているという点だろう。ユーザーと事業者の双方にメリットがあるかたちで生体情報を活用することによって、それぞれのサービスが持つ専門性に新たな付加価値を与える——。

「昨今、AIが人間の仕事を奪うかのように語られます。しかし、我々のプロジェクトでは、専門家の方々が提供するコトや知見に、データ解析技術をシンクロさせることで新たな価値を創造し続ける世界の実現を模索しております。データの使い方次第で、人の価値はもっと高めることができる。そして、そこから生まれた価値をより多くの人々の生活に還元していけたらと考えています」(山地さん)

データを元に眠りの“処方箋”を提供する——生体情報解析プロジェクト(前編)


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