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できないことは何もない!? ゲノム技術の民主化に向けて ——共創プラットフォーム「SMARTCELL & DESIGN」(後編)

2019年02月13日



できないことは何もない!? ゲノム技術の民主化に向けて ——共創プラットフォーム「SMARTCELL & DESIGN」(後編) | あしたのコミュニティーラボ
2017年9月に株式会社電通を中心に発足されたゲノム技術をビジネスに活用する社内外横断組織「SMARTCELL & DESIGN」。後編では同プロジェクトにおいてビジネス・ディレクターを務める電通・志村彰洋さんと、アドバイザーとして参画する東京工業大学生命理工学院准教授・相澤康則さんをお招きし、改めてゲノム技術の最前線を教えていただくとともに、スマートセルのデザインがもたらす“未来”について語っていただいた。

ゲノムで未来を編集する? スマートセルがもたらす社会 ——共創プラットフォーム「SMARTCELL & DESIGN」(前編)

ゲノム合成が与える社会的インパクト

SMARTCELL & DESIGN発足のきっかけとなった、2017年のボストン視察(前編参照)。このとき、ゲノムの世界を目の当たりにし「自分のなかに使命感のようなものが生まれた」と語るのが、同プロジェクトのビジネス・ディレクター、電通・志村彰洋さんだ。

SMARTCELL & DESIGN プロジェクト・マネージング・ディレクターの志村彰洋さん
SMARTCELL & DESIGN プロジェクト・マネージング・ディレクターの志村彰洋さん

志村さんによれば、これまでのゲノム技術は「ゲノム解析→ゲノム編集」の順序でステップアップしてきたという。「ゲノム解析」とは「ヒトゲノム計画を象徴としたゲノム(遺伝子情報)解読のこと」で、技術的には短期間かつ安価の解析が十分に可能となっているのは前編で紹介したとおり。

続く「ゲノム編集」は「任意のゲノムを改変すること」。ゲノム編集によって、農業分野・健康分野、さらには工業分野で高度な物質製造が可能になるという。経済産業省が掲げるスマートセルインダストリーはこのうち工業分野での産業群創出を指している。

そして、その“さらに先”にあるのが、ゲノムの“合成”(合成生物学)——「ゲノムをまったくのゼロベースから新たに設計・人工合成すること」である。

「ゲノムの本質は“情報”をアナログな空間に具現化できること」と語る志村さん
「ゲノムの本質は“情報”をアナログな空間に具現化できること」と語る志村さん

ゲノム生物学を専門とし、SMARTCELL & DESIGNにもアドバイザーとして参画している東京工業大学生命理工学院准教授の相澤康則さんは、ゲノム合成が創出する価値を次のように説明する。

「植物のゲノムを編集しても、できあがるものはあくまで植物に過ぎません。しかし、ゲノム合成ならば、動物と植物と微生物のゲノムからまったく新しいハイブリッドの生命体を生み出すことが可能となる」(相澤さん)

東京工業大学生命理工学院准教授の相澤康則さん
東京工業大学生命理工学院准教授の相澤康則さん

「栄養価の高い雑草ができれば飢餓がなくなるかもしれないし、豚のゲノムをヒト型に変えれば豚の臓器を人に移植できるようになる。さらには、ゲノム合成で火星の大気を変えられれば人類の火星移住も可能になるかもしれないし、マンモスの再生も不可能ではない——。そうしたSFでしか考えられてこなかったことが、ゲノム合成の文脈では『(理論上は)できないことは何もない』といっても過言ではありません」(相澤さん)

共創の意義——ゲノム合成は「後追いできない」

しかし相澤さんはその課題として、「だからこそ、想像力のほうが負けてしまいがち」だと指摘する。

「何でもできると言われると何も想像できなくなるのが人間というもの。また日本のゲノム技術はこれまで他国の後追いをしているだけだった。しかしゲノム合成はまだまだ世界的に見てプリミティブ(初歩的)な研究分野だからこそ、日本も今からでもまだ遅くはありません。何もはじまっていないからこそ、本当の意味でオープンイノベーションを起こし、子どもたちの時代に生命科学でワクワクできる可能性を残せると期待しています。このためには、 現在はゲノムから程遠いと考えられる“非ゲノム”分野も共創プラットフォームに巻き込むことが重要だと考えています」(相澤さん)

「ゲノム技術を追い抜く想像力こそが必要」と相澤さん
「ゲノム技術を追い抜く想像力こそが必要」と相澤さん

世界的には、ゲノム技術の民主化——すなわち一般的な市民による取り組みも起こりつつある。その1つの事例が「DIYバイオ」だ。ロンドンに住むある若者は、DNA分析装置「Bento Lab」を開発。簡単な遺伝子解析を可能にする実験装置が、A4サイズほどの箱に収められて販売しており、市民が自由に遺伝子実験をできるという。日本の場合は「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法)によって規制措置がとられているため、DIYバイオは不可能であるが、ゲノム技術の社会浸透を考えるうえでとても興味深い事例だ。

いずれにせよ、ゲノム・非ゲノムを交えた産学共創により、ゲノム技術のユースケースを次々に生み出すと同時に、ゲノム技術に関するリテラシー向上のため「ゲノムにあまり興味を持たない人たち」を啓発しながら全体のレベルを底上げする。これらを同時並行的に執り行うのが、SMARTCELL & DESIGNの意義だといえそうだ。

「『ゲノム』『合成生物学』という言葉は、その語感からかどこか取っつきにくい印象を与えてしまうので、個人的には『ゲノム』に代わる何か新しい言葉をつくりたいくらいなのです。日本はライフサイエンスに対するリテラシーが低いことは、1人の専門家としても課題として痛感しています。ここを乗り越えられれば、その裾野がもっと広がり、結果的に広く様々な産業分野で、ゲノム技術をベースにした全く新しいサービス・製品を生みだす土壌ができあがってくるでしょう」(相澤さん)

ゲノム技術を民主化・マス化するために

志村さんらはビジネスの側面からゲノムの新しい可能性を考えるGENOME THINKING(ゲノムシンキング)という体験ワークショップも定期的に開催。国内企業も大きな関心を寄せているという。

GENOME THINKINGの風景(提供:電通)
GENOME THINKINGの風景(提供:電通)

「ゲノムの波がこれから確実に来るといわれるなか、ゲノムをもっと露出させ、ゲノム合成も十分可能なのだという前提で、マス化を進めなければならないと考えます。スマホだってそうでした。これまでの固定電話やガラケーに慣れ親しんだ年配の人はスマホが出た当時、さまざまな情報が端末間で自由に行き来するなんて気味悪く思ったかもしれません。しかしデジタルネイティブにとっては最早それが当たり前。その状態をゲノム領域でもつくりたいんです」(志村さん)

「ゲノム技術をマス化し、“ゲノムネイティブ”な世代を育てたい」
「ゲノム技術をマス化し、“ゲノムネイティブ”な世代を育てたい」

「とりわけゲノム合成は、積み上げ式に何かを生み出していくというよりも、クリエイティビティーが試される領域。相澤先生がおっしゃるとおり、想像力が技術を追い抜かなければ新しいものは生まれません。キッズプロジェクト(前編参照)もそうしたコミュニケーションデザインの1つです」(志村さん)

志村さんは最後に改めて、SMARTCELL & DESIGNのビジョンを次のように語った。

「これからゲノムのマス化が進んでいけば、もちろん社会的に大きな恩恵を受けることになりますが、同時に、倫理やセキュリティーの観点も踏まえながら社会がきちんとゲノムサイエンスを受け容れる体制を持たなければいけない。本プロジェクトでは、電通が培ってきたコミュニケーションの視点を用いて、社会に対してゲノムをわかりやすく翻訳する活動を続けていきたいと考えています」(志村さん)

バイオテクノロジーの新しい時代が、今はじまろうとしている。

ゲノムで未来を編集する? スマートセルがもたらす社会 ——共創プラットフォーム「SMARTCELL & DESIGN」(前編)


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