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カーシェアリングからはじまる被災地支援――日本カーシェアリング協会(前編)

2019年03月22日



カーシェアリングからはじまる被災地支援――日本カーシェアリング協会(前編) | あしたのコミュニティーラボ
2018年の西日本豪雨で被災した倉敷市真備町地区で、住民や支援者の足となるクルマが無償貸与された。宮城県石巻市の復興住宅で「コミュニティ・カーシェアリング」の取り組みを展開する日本カーシェアリング協会の代表理事、吉澤武彦さんがボランティアで被災地入りし、県と市と地元企業が連携してクルマや拠点を提供しバックアップ。100台近いクルマが貸し出された。その経緯を振り返り、官民連携がスムーズに進んだカーシェアリング災害支援のノウハウを探る。

カーシェアリングで広がる、ゆとりとユーモアのある地域コミュニティーの輪――日本カーシェアリング協会(後編)

災害対応ための速やかな官民連携が実現

2018年7月6日、西日本を豪雨が襲った。岡山県倉敷市真備町では、7日未明の小田川の堤防決壊により地区面積の3分の1が水没。4,600戸が浸水被害にあい、20か所以上の避難所にピーク時は8,200名が避難した。浸水区域は2016年に作製したハザードマップの想定とほぼ同じだったが、ひどいところでは約5m、2階の屋根近くまで浸水するほど甚大な水害の経験は過去になかった。

豪雨災害から10日後の7月16日。宮城県石巻市から真備町へ向かう1台のキャリアカーがあった。積載する6台の自動車は、水没してクルマが使えなくなった被災者のために無償貸与するためのもの。石巻の復興住宅でコミュニティ・カーシェアリング事業に取り組む一般社団法人日本カーシェアリング協会の代表理事、吉澤武彦さんの活動だ。

地元石巻で寄付された空きのクルマをとりあえずみつくろい、オートバックスセブン株式会社が協力してキャリアカーを出した。吉澤さんは2016年の熊本地震など多くの被災地へ「いつも勝手に行っています。今回もそうでした」と話す。
一般社団法人 日本カーシェアリング協会 代表理事 吉澤武彦さん
一般社団法人 日本カーシェアリング協会 代表理事 吉澤武彦さん

その様子をテレビのニュースが放映し、たまたま岡山県知事が見ていた。「応援しなければ」。すぐに指示を出し、県の産業労働部が日本自動車販売協会連合会岡山支部や岡山県軽自動車協会に呼びかけ、県内の各ディーラーが応えた。

日本カーシェアリング協会と支援連携した経緯と感想についての、岡山県知事・伊原木隆太さんのメッセージ

クルマは県と地元ディーラーの協力で確保したが、提供する拠点が必要で、被災地に近いところがいい。県の産業労働部は日頃から連携している倉敷市の文化産業局に声をかけた。市の文化産業局は管轄である真備総合公園体育館を拠点として提供。

地元で集めたクルマと日本カーシェアリング協会が全国の個人や企業から集めたクルマを合わせて100台近くの配備ができた。災害時の官民連携が速やかに望ましく実現した好例だ。
カーシェアの拠点となった真備総合公園体育館
カーシェアの拠点となった真備総合公園体育館

カーシェアが被災者の生活の足を支援

「これまでの災害支援では、僕らだけがクルマを集め、被災者のところまで届けて貸し出していたので、70〜80件くらいの利用規模でした。ところが今回は車約100台を駆使し600件を超えています。拠点があったおかげです。いきなり被災地へ行ってクルマを置く場所を確保するのはなかなかできません。地元のディーラーさんも登録や修理で協力してくれました。県も市も企業も力を合わせたからこそ、僕らもスムーズに運営できたと思います。ここまで連携がうまくいったのははじめて。災害対応のこうした官民連携モデルを全国に広めたい」と吉澤さんは話している。

県の産業労働部から市の文化産業局へという、災害対応としては異例のルートだが、クルマと場所の確保という目的に最も適合した現場をよく知る部署が日頃の業務を活かして速やかに動いた。行政間の連携もうまくいったといえる。

倉敷市文化産業局文化観光部の三宅靖広さんは「カーシェアで被災者の生活の足を支援できるということに、はじめて気づきました。全国の自治体にも知ってほしい」と語る。

「今回のような官民連携の仕組みを平時から想定しておけば災害対応を速められます。カーシェアに限らず、避難所での入浴やペットの問題も民間事業者の協力をいただきました。“ボランティアに感謝の気持ちを見せては?”との声が届いたので、御礼の横断幕を掲げたり、ホテル旅館業界に割引サービスのお願いをしたりなど、今回の災害では市民の方々に気づかされることが多かったのです」(三宅さん)。
倉敷市文化産業局文化観光部の三宅靖広さん
倉敷市文化産業局文化観光部の三宅靖広さん

倉敷市職員の発案で、役割を終えたクルマのうち最初に支援されたのと同じ6台を市職員が返礼として石巻まで陸送した。不幸な災害をきっかけに、かたちばかりでなくこころも通い合う官民連携のあり方が見えてきたようだ。

浸水した自宅の後片付けと家財の運び出しに

真備町が水没したとき、栢野皓(かやのひろし)さんは屋根の上に夫婦二人で逃げ、ボランティアの水上バイクに救助された。当時を振り返る。

「最初は床下浸水くらいやろ、と玄関先へ土嚢を積みよったです。そしたらドーッと一気に水がきた。畳が浮き出して上へ乗ったら(水位上昇が)止まらんのですよ。それで天井をぶち破り、横へ横へ這って、頑丈なガレージの上へ。水に浸かったまま4〜5時間いた。雨も降ってたし。よう助かったと思います」

避難所の小学校は真備地区。市の支所も浸水したため、役所に用事があるときは15km離れた本庁まで行かなければならない。そうした日常の足に栢野さんはカーシェアのクルマを利用した。

「真備にはなんにもなかったからね。弁当買おうと思ってもみんな行くので売り切れ。クルマがあって助かりました」(栢野さん)。
被災した栢野皓さん
被災した栢野皓さん

野田茂さんは倉敷市役所本庁近くの避難所にいた。浸水した真備の自宅まで12kmほど離れている。暑いさなかに自転車で汗だくになり1時間かけて後片付けにきていたが、カーシェアがあることを知り、軽トラックを2〜3日借りて家財道具の運び出しなどに使った。そのあとは一緒に避難所にいた人とシェアして3日に1回、軽乗用車を10月まで利用した。
浸水した自宅の片付けにカーシェアを活用した野田茂さん
浸水した自宅の片付けにカーシェアを活用した野田茂さん

「ほんまに助かりましたわ。レンタカーはどこもないしね。2トン車とかはあるんだけど、あんな大きなトラックじゃ荷台が高くて積むのに重労働だし、小回りがきかない。軽トラだと荷台も低いしどこでも入っていけるでしょ。クルマがあれば女房も一緒にこられるし」(野田さん)。

ボランティアの活動も支援するカーシェア

カーシェアを利用したのは被災者ばかりではない。支援者にも貴重な足となった。「真備美しい森」という山の上のボランティア宿舎にいた今井健太郎さんらは、道具や工具を携えて被災現場に通うのと廃材搬出に利用した。家財の撤去が終わった8月半ばから、被災した家の天井、壁、床を剥がす作業に従事したという。

「ぜんぶ水に浸かっているので柱だけの骨組みにして乾かします。施工業者さんが入る前の下処理です。廃材の搬出費用や工賃を浮かして少しでも被災者の負担を減らせれば、と。体力のいる重労働なので若いボランティアの出番です。乗り合わせて行ける軽バンを探していたんですが、レンタカーだと月々結構な金額になります。吉澤さんに声をかけていただいてすごく助かりました」(今井さん)
ボランティア活動にカーシェアを活用した今井健太郎さん
ボランティア活動にカーシェアを活用した今井健太郎さん

2014年8月、豪雨による広島市の大規模な土砂災害のとき、ちょうど現地にいた今井さんは犠牲者を目にして「土かきをするくらいなら僕にもできる」と、落ちていたスコップを持って手伝った。それが災害ボランティアをはじめるきっかけ。

書道家という比較的自由に時間をつくれる職業だから駆けつけられる。これまでは自分のクルマで移動し寝泊まりしながらボランティア活動をしていたが、「必要なときに調達できるカーシェアはありがたい」と話している。

今回、被災者や支援者に貴重な移動手段をもたらしたカーシェアリング。倉敷市の三宅さんの言葉にもあったとおり、今回のような官民が連携する仕組みを、平時から地域に組み込むことができれば、災害対策に大きな貢献を見込むことができるのではないか。実際に、その取り組みは加速しており、1月17日には、岡山県、日本自動車販売協会連合会岡山支部、岡山県軽自動車協会、日本カーシェアリング協会の4者で災害時における連携協定を締結した。
1月17日に行われた「災害時における被災者等の移動手段確保に関する協定締結式」の様子(提供:日本カーシェアリング協会)
1月17日に行われた「災害時における被災者等の移動手段確保に関する協定締結式」の様子(提供:日本カーシェアリング協会)

真備町での事例は、自然災害大国である日本の自治体にとって、決して充分ではない防災や予防といった対策面で大きなヒントになるだろう。

後編では日本カーシェアリング協会が石巻で取り組む「コミュニティ・カーシェアリング」の意義と、その横展開の可能性を探る。

カーシェアリングで広がる、ゆとりとユーモアのある地域コミュニティーの輪――日本カーシェアリング協会(後編)


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