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カーシェアリングで広がる、ゆとりとユーモアのある地域コミュニティーの輪――日本カーシェアリング協会(後編)

2019年03月27日



カーシェアリングで広がる、ゆとりとユーモアのある地域コミュニティーの輪――日本カーシェアリング協会(後編) | あしたのコミュニティーラボ
クルマの運転が難しい高齢者の外出支援を住民同士が助け合うことを通じて地域を元気に。——後編では、石巻で日本カーシェアリング協会(JCSA)が取り組む「コミュニティ・カーシェアリング」を取り上げる。東日本大震災の被災地支援をきっかけにはじまったこの活動は宮城県内9地域で展開され、そのノウハウは他県にも広まろうとしている。生活支援と楽しみづくりを融合させてコミュニティーを活気づけ、持続可能な運営を実現させている秘訣を探ってみたい。

カーシェアリングからはじまる被災地支援――日本カーシェアリング協会(前編)

カーシェアリングを通じたコミュニティーづくり

一般社団法人日本カーシェアリング協会が石巻市の復興住宅などで広める「コミュニティー・カーシェアリング」は、その名の通り、カーシェアを通じたコミュニティーづくりを目指している。高齢でクルマの運転が困難になった人たちの外出支援を住民同士で行う活動を通じて、地域の活性化を支援するのが目的だ。

まずはアンケート調査で地域の実態を把握し、グループづくりの支援から着手する。住民同士でカーシェア会をつくってもらい、代表を決めてもらう。そこへ協会名義のクルマを貸し出す。

予約方法やルール、クルマの経費(燃料・電気代や保険料など)の捻出方法、鍵の管理などについては住民同士の話し合いで決める。協会スタッフは導入・運営をサポート。たとえば、道路運送法を遵守しながら活動費を集めたり活動を始めたりするための会則や使用するツール(申込書や広報用のチラシ等)の雛形であったり、道路運送法に触れないための仕組みなどの運営ノウハウなどを授ける。
石巻市駅前北通りにある日本カーシェアリング協会の事務所
石巻市駅前北通りにある日本カーシェアリング協会の事務所

同協会代表理事の吉澤武彦さんは、大学を卒業後6年間、大阪の企業で働いていたが、1995年の阪神淡路大震災で支援活動を7年間続けた元・神戸元気村代表の山田バウさんとの出会いがきっかけで社会活動の道を歩むことになった。

東日本大震災直後に被災地入りし支援プロジェクトに没頭していたころ、その山田さんから1本の電話が入る。会うと「被災地の仮設住宅でカーシェアリングを提案してはどうや?」。
一般社団法人 日本カーシェアリング協会 代表理事 吉澤武彦さん
一般社団法人 日本カーシェアリング協会 代表理事 吉澤武彦さん

吉澤さんはそのときはじめてカーシェアリングという言葉を知った。津波で破壊された大量のクルマ。買い戻す余裕もない被災者の現状。そんな光景が目に浮かび「わかりました。やってみます」と答えた。

助けるというより楽しい地域をつくりたい

一部上場企業を訪問しクルマの提供を頼んだ。当初は断られ続けたが、だんだん人づてに寄付してくれる個人や企業が増えた。はじめての事例ゆえ宮城県警、宮城県運輸支局との慎重かつ精細なやりとりを続けて認可を取得し、2011年10月から仮設万石浦団地でカーシェアリングの本格的な活動がはじまった。「ゼロからコミュニティーをつくりあげるスタートでした」と吉澤さんは振り返る。

「まず集まったのは5人ほど。話題はすぐにカーシェアリングから逸れました。ゴミが散らかっている。近所同士の交流がない。そんな話から月1回のゴミ拾い、週1回のお茶会が生まれました。そこから人が集まるようになったんですね。そして、1人暮らしのお年寄りがタクシーで病院に通い、経済的に苦しくて困っている様子などが話題にのぼり、メンバーの1人がその方の外出支援をはじめました」(吉澤さん)

石巻市の仮設団地では行政主導で自治会結成の話し合いがもたれていたが、役員の引き受け手がいなかった。しかし万石浦団地ではすでにコミュニティーが育まれていたので、カーシェアリングのメンバーが自治会の役員になり、極めてスムーズに自治会が結成されたという。

2012年2月、取り組みの重要性を理解した石巻市が「カーシェアリング・コミュニティ・サポートセンター」を設立し、運営業務を日本カーシェアリング協会が受託。地元の人をスタッフに雇用し、カーシェアリングの導入・運営をサポートする現在のスタイルができあがった。仮設住宅から復興住宅に移った今も9地域でカーシェア会が活動し、平均30人ほどの会員が利用している。
オリジナルキャラクターのスートンとローリーが目印
オリジナルキャラクターのスートンとローリーが目印

「困っている人を助けるというより、楽しい地域をつくる。そんなスタンスを大事にしています。1人よりみんなで買い物に行ったほうが楽しい。仲間と旅行もしたい。そんなエネルギーをつかまえるんです」と吉澤さんは強調した。

買い物ツアーや日帰り旅行の参加費は経費を差し引いた残りをカンパ金として計上されクルマの維持費になる。コミュニティーが活発になればカーシェア会の持続可能性も高まる仕組みだ。
提供:日本カーシェアリング協会(JCSA)
提供:日本カーシェアリング協会(JCSA)

5kmあたり500円の預り金を定期的に精算しながら運営

2016年8月に立ち上がった「新西前沼カーシェア会」は現在64名。代表の青山信二さんがメインで移動支援の運転手をつとめる。利用の予約は前日までに。移動支援の依頼は8時〜16時。預り金は5㎞単位で500円が基本。1日通しての利用は最大2,500円の定額。以上が同会のおおまかな利用ルールだ。

「移動支援の利用は病院通いが多いですね。ほぼ5㎞圏内。ただ病院だと待ち時間が長いときがあるでしょ。待ってる場合もあれば、いったん戻ってまた迎えに行くこともあります」と青山さん。
新西前沼カーシェア会 代表の青山信二さん
新西前沼カーシェア会 代表の青山信二さん

ほぼ毎日利用があって青山さんはフル稼働。「みんなに“おかげで助かります”と言われるとうれしいですよ。でも4〜5年たてば俺もくたばるからね」(青山さん)。

そう笑うと「お茶っこ」(お茶会)に集まった会員たちが「いえいえ、おしゃれなハート型のメガネを見ても、まだまだぜんぜん大丈夫!」と励まして大爆笑になった。

「コミュニティーを大事にしているので月に1回程度は“お出かけツアー”があります」と、新西前沼カーシェア会の運営を支援する日本カーシェアリング協会コミュニティサポート事業部の田中大樹さん。

「2018年はサクラ、ツツジの名所めぐり、ランチツアー、乗り合い買い物ツアー、塩釜市場や岩手の厳美渓への日帰り旅行……などでした。だいたい3台くらいに分乗して行きます。協会が7〜8人乗りのワゴンを出して私が運転し、あと2台は会員さんの運転。参加費は行き先によって違いますが、小旅行だと1人あたり1,000円弱くらいのカンパ金が残るように設定しています。そうしたカンパ金を経費から差し引いて、残りの経費は外出支援を利用している会員のみなさんに、利用頻度に応じて負担していただいています。ルールで決めた預り金は、日々の活動のために活用し、定期的に精算しながら運営を行っています」(田中さん)。
日本カーシェアリング協会 コミュニティサポート事業部の田中大樹さん
日本カーシェアリング協会 コミュニティサポート事業部の田中大樹さん

2018年度から会員の総意で、役員手当の規定が定められ、運営を担う代表・監事・会計等の役員にそれぞれ役員報酬が支払われている。うまく運営され収支に余裕があるからこそ「みなさんの気持ちをかたちにできた」(田中さん)。

「お茶っこやお出かけで友達になれるのがうれしい」

会員の皆さんの声を聞いてみた。北谷松子さんは「運転免許は持っていますが高齢なので娘に勧められて入会しました。お茶っことかお出かけがあるので皆さんとお友達になれるのもうれしいですね」と話している。

戸建住宅に住む浮津(うきつ)千恵子さんは、日本カーシェアリング協会のスタッフも協力する地域の夏祭りを手伝った縁で入会した。
「自分でクルマを運転できるので移動支援は受けていませんが、お出かけに参加したり、お茶っこのお手伝いをしたりしています。皆さんと会って話すのが楽しくて」(浮津さん)。

復興住宅に住む菅藤(かんとう)さつ子さんは、もともと地域活動に携わっていた。やはりクルマは持っているが、お茶っこやお出かけを毎回のように手伝う。「わたしの場合は、ただただ皆さんの笑顔を見ていたいだけなんです」。

左から、新西前沼カーシェア会の尾形つや子さん、柴田祐子さん、北谷松子さん、浮津千恵子さん
左から、新西前沼カーシェア会の尾形つや子さん、柴田祐子さん、北谷松子さん、浮津千恵子さん

「弱い人を助けるためには最高のやり方ですよね」と話す千葉勇さんは、青山さんと同様、立ち上げ時期からの会員の1人。「今は移動支援のお世話にはなっていませんが、いずれは免許も返納しなければならないだろうから、そのときに乗せてもらうためにサブのボランティアドライーバーとして協力したい。そういうつもりで参加しました」。千葉さんのこの言葉が、カーシェアの共助としての意義を言い当てているだろう。
立ち上げ期から新西前沼カーシェア会に関わっている千葉勇さん
立ち上げ期から新西前沼カーシェア会に関わっている千葉勇さん

カーシェア会それぞれの自立運営をめざして

新西前沼カーシェア会のようにメインとなるドライバーを中心に移動支援をしているところもあれば「3人くらいのドライバーが分担して活動していらっしゃるカーシェア会もあります」。そう話すのは、日本カーシェアリング協会コミュニティサポート事業部の熊谷江美さん。

「皆さんの都合に合わせて活動をお願いしているので、複数人の場合、予約の受付とスケジュールはドライバーさん同士で調整するか、連絡係の方を立てるか、カーシェア会ごとのやり方で運営していただいています」(熊谷さん)
日本カーシェアリング協会コミュニティサポート事業部の熊谷江美さん
日本カーシェアリング協会コミュニティサポート事業部の熊谷江美さん

熊谷さんは東日本大震災前まで地元の農協に勤めていたが、震災後、「支援されたお返し」がしたいと県外のボランティアやNPO団体などで活動し、2018年1月から現在の仕事に。4地域のカーシェア会の導入・運営支援に携わっている。

「ご高齢でもすごくアクティブな方が多くて、私のほうが元気をもらってます。夏バテして体調を崩し通院していた80代の方が、自宅を訪ねたらキーボード(電子ピアノ)を買っていました。外へ出られないのでこれからはじめてみよう、って。他にも、手仕事をするのが好きな人たちの“ほっこり会”という集まりには80代後半から90代の方々が集まっています」(熊谷さん)

今後の最重要課題は「コミュニティ・カーシェアの自立化」。協会スタッフが事務局を担いながら活動を開始し、少しずつ役割を会員に移していくサポートのスタイルをとっている。たとえば、予約の管理、買い物等のツアーの運営、定期的なお茶っこなどの役割は少しずつ会員に担えるようになってきているという。しかし、総会の準備や精算のための会計処理など、高齢の会員にとって負担が大きい業務もあるため、完全にサポート無しの自立運営に至っている地域はまだない。

将来的には、会員が主体性をもって無理なく自立運営できるようにプログラムを再構築し、協会はクルマを提供するだけ、という体制を確立したい。そうなれば他地域への広がりもさらに加速するだろう。

自主独立へ向けての気運を高めるのも協会のサポートスタッフの大切な役割だ。そのあたりの苦心について熊谷さんはこう話す。

「今まで積極的に関わっていた方がふっと落ち込んだりすると、活動が停滞したり……。お互いに気を遣いすぎるところもあるんですね。会員同士すごく仲よくなって活動が盛んになってきたけれど、利用している方は自分のせいでドライバーの負担が増えているのではないかと心配になるとか。そんなときは、お茶っこなどでお互いにどんな気持ちでこの活動をしているのか話して理解し合えるようにしています」

生活支援と楽しみづくりが融合した雛形を全国へ

日本カーシェアリング協会は、石巻の仮設住宅、復興住宅を舞台に7年間かけて持続可能なコミュニティ・カーシェアリング運営の雛形をつくった。それをカスタマイズすれば「日本全国どの地域でも展開が可能」と吉澤さんはいう。

前編で紹介した真備町では水害時のカーシェアを支援したが、それとは別に同じ岡山県でコミュニティー・カーシェアの導入支援を有償で実施している。これは寄付や行政委託、ソーシャルカーリース(地域活動団体向けの格安リース)などのレンタカー事業を財源とする協会の新たな活動原資となる取り組みだ。

岡山県美作市上山地区。千年以上の歴史がある棚田が耕作放棄地となっていた同地区では、2007年から若い移住者と地域住民、行政が協力し棚田の再生活動をはじめ、それが起爆剤となってさまざまな地域活動が活発になってきた。
一般財団法人トヨタ・モビリティ基金は2016年から4年間、上山地区の「中山間地域の生活・経済活性化のための多様なモビリティ導入プロジェクト」を助成。コミュニティー・カーシェアリング導入の試みもこれを活用している。
超小型電気自動車(EV)「コムス」が並ぶ、「上山集楽みんなのモビリティプロジェクト」の事務所
超小型電気自動車(EV)「コムス」が並ぶ、「上山集楽みんなのモビリティプロジェクト」の事務所

8年前の大学生のとき地域おこし協力隊で上山にきてそのまま移住し地域活動に従事する水柿大地さん(認定NPO法人英田上山棚田団理事/NPO法人みんなの集落研究所執行役)が、カーシェア導入の経緯について次のように話す。

「プロジェクトの最初の1年は住民の方にお話を聞いて回りました。お茶会などの集会を重ねて、草刈り、子守り、犬の散歩など、困りごとがいろいろ出てくるなかで、移動の課題も出てきた。助け合いが欠かせない複合的な問題のひとつだったんですね。

ガソリン代実費の無償運送で乗り合いをする取り組みを1年続けてきましたが、白タク行為すれすれな部分だったり、わかりにくいところがあったりするので、プロジェクトの終了が見えてきた時点で、どう継続するか話し合っていました。そんなとき吉澤さんが真備町へ災害支援にいらして、僕らの団体のメンバーも支援に行っていた縁でお会いする機会があり、住民同士で乗り合うノウハウを教えていただけたら、という話になったのです」
認定NPO法人英田上山棚田団理事/NPO法人みんなの集落研究所執行役の水柿大地さん
認定NPO法人英田上山棚田団理事/NPO法人みんなの集落研究所執行役の水柿大地さん

水柿さんら移住者と共に地域活動に取り組む上山集落の住人、須田悦子さんも移動支援のニーズの高さを語る。「高齢になって免許を返納すると、病院に通うにも子どもや親戚に頼るほかないですよね。でも身内は遠いところに住んでいる。どうしたら迷惑をかけずに生きられるかと考えたら、謝礼を出してでも病院へ連れて行ってくださる方がいれば助かる、とおっしゃる方は多いです」(須田さん)。
移住者と共に地域活動に取り組む上山集落の住人、須田悦子さん(写真右)
移住者と共に地域活動に取り組む上山集落の住人、須田悦子さん(写真右)

「上山には素地があります」と吉澤さんは期待をかける。「コミュニティーができあがっていて、サロンもツアーも移動支援もやっている。あともう少しで持続性が保てるところまできているので石巻の例を参考にしていただければ」

「そうですね」と水柿さんが同意する。「これまで、上山ではお茶会もツアーも移動支援も別々の会計にしていました。石巻ではそこをうまく融合して会費に計上し、経費を捻出されている。生活支援と楽しみづくりをパッケージにされているところが参考になります。僕らも決してカーシェア自体が目的なのではなく、もともと棚田の再生を通じて地域住民と移住者が一緒になって地域を元気にするという活動の軸があり、そのための移動支援、居場所づくり、楽しみづくりなんです」

吉澤さんの胸に今も刻まれている言葉がある。「タイヤのように動け、コマのように動くな」。社会活動の師、山田バウさんのメッセージだ。コマは漢字で「独楽」と書く。同じ場所で回り続けて自己満足していては何も変わらない。周囲を巻き込み、風景を変えながら動けという意志が込められている。

日本カーシェアリング協会の行動指針の1番目には「動きながら考える」とある。山田さんのメッセージと同じ意味だろう。そして最後の項目にあるのが「心のポケットにミッキーマウスを入れておく」。常にゆとりとユーモアを忘れずに。

同協会のスタッフの名刺でいちばん大きく目立つのが愛称だ。吉澤武彦なら「タケです」、田中大樹なら「だいです」、熊谷江美なら「えみです」と大きく印刷されている。カーシェア会のメンバーからも愛称で親しげに呼ばれる。生活支援と楽しみづくりを融合させた輪は、ゆとりとユーモアを媒介にして、広がっていくのだろう。

カーシェアリングからはじまる被災地支援――日本カーシェアリング協会(前編)


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